研究課題/領域番号 |
16K06519
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
関根 正人 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60187854)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水工水理学 / 河川工学 / 移動床水理学 |
研究実績の概要 |
全体計画に基づき一連の移動床実験を行い,模擬堤防が決壊するメカニズムを解き明かすことに努めました.実河川を模して十分締固められた模擬堤防を用意し,これを越える水の流れによって堤防が決壊する現象に注目しました. 本研究では,堤体を構成する材料に粘土が含有される場合にどのような影響が現われるかを明らかにすることを目指して,次の2つのシリーズの実験を行いました.「実験-1」は均一な材料からなる堤防を対象にしたものです.ここでは,(1) 砂のみで構成された模擬堤防を対象とした実験(「実験-1a」)と,砂に粘土を9%含有させ一様に混合して作成した粘着性材料からなる堤防についての実験(「実験-1b」)を行いました.そして,両者の結果を比較・検討することにより,堤防決壊に及ぼす材料の粘着性の影響を明らかにすることができました.粘土を含有することによって材料の耐浸食性が高まると,破堤口の上縁が堤防の表法肩に到達するのに要する時間が長くなり,堤防破堤に到るまでの時間を遅らせることができるという結果を得ました.また,堤防の裏法面側にはステップ状の地形が形成され,砂のみの場合とは明らかに異なる浸食が進むことがわかりました.このような差異が生じるのは粘土を5程度以上含有した場合であることも確認されました.「実験-2」では,堤体が砂のみによる層と粘着性材料からなる層とが互層構造になっている場合などを想定し,数パターンの実験を行いました.この結果から,堤体内の土質構造の違いによって堤防決壊のプロセスに系統的な違いが現われることがわかりました.さらに,堤防決壊を遅らせる土質構造についても考察を加えました. 本研究の成果の一部をまとめた論文は土木学会論文集に掲載され,水工学講演会でも口頭発表されました.また,後半の内容は,2017年 9月開催の土木学会年次学術講演会にて口頭発表することになっています.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的には当初の計画の通りに進んでいます.2016年度7月までは,既往研究の文献調査と,本格的な実験に向けての予備実験を行いました.その後,本実験に移行し,「研究実績の概要」に記した「実験-1」に取り組みました.本研究では,堤体を構成する主な材料を珪砂とし,これに混ぜ込むカオリン粘土の比率を0%~10%の範囲で系統的に変化させた一連の実験を行いました.これにより,材料がもつ粘着性の影響を明らかにすることができました.2017年度に補足実験を行い,再現性の検討をする必要はありますが,十分な理解はすでに得られていると考えています.次に,「実験-2」に取り組みました.これについてもひととおりの検討を終えることができました.堤体内に粘土を含有する層がどのように入り込んでいるかによって,堤防決壊に到るプロセスに明らかな差異が生じることがわかりました. 新規購入した「高精度の二次元レーザ変位センサ・システム(超高速インラインプロファイル測定器)」は10月には納入され,それ以降の詳細な計測にはこれが効果を挙げています.実験には大学院生2名と学部生1名による研究補助を受けました.当初の計画より多くの時間をかけることにより,より多くの条件下での実験を行うことができました. 越水による堤防決壊現象を数値計算により再現する予測手法については,基本的な考え方をまとめることに専念しました.これについての本格的な検討は2017年度に行う予定になっています.
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今後の研究の推進方策 |
2016年度の結果を踏まえて,当初の計画通りに以下の検討を進めていきます.計画の見直しは必要ありません. 第一に,「研究実績の概要」に記した「実験-1」と「実験-2」の検証実験を行います.現象の本質は概ね理解できましたので,さらに細部についてまでデータを示しつつメカニズムを明確にできるようにしていきます.年度途中の9月末までには一区切りとなるように取り組み,その成果を土木学会論文集特集号の論文にまとめて投稿する予定です. 第二に,堤防の天端補強の効果を調べるための基礎的な実験を行います.実河川で進められているような「アスファルト舗装」を施すことで,堤防決壊を遅らせることができるのかについて確認します.さらに,どのような補強が望ましいのかについても明らかにします. 第三に,越流による堤防決壊の数値予測手法の開発についての研究を本格化させます.2017年度内には手法の雛形を完成させます.また,計算の結果と実験結果とを比較検討することにより,妥当性の検証とあわせて,次年度に向けた課題を明らかにしていきます.
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