研究課題/領域番号 |
16K06520
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
赤堀 良介 愛知工業大学, 工学部, 准教授 (50452503)
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研究分担者 |
原田 守啓 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 准教授 (00647042)
川村 里実 (山口里実) 国立研究開発法人土木研究所, 土木研究所(寒地土木研究所), 研究員(移行) (70399583)
石黒 聡士 愛知工業大学, 工学部, 研究員 (90547499)
片桐 浩司 国立研究開発法人土木研究所, 土木研究所(つくば中央研究所), 研究員(移行) (90608069)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 樹林化 / 微地形 / 浮遊砂 / 現地観測 / 土砂水理学 / SfM-MVS |
研究実績の概要 |
本研究は、河道内植生進出の初期段階の物理的機構を記述可能な予測検討手法の構築を目的とする。平成28年度は、以下の3つのタスクにおける要素的研究を実施した。 1.微地形による局所流と細粒土砂堆積の関連性の検討、および2.植生群後流と浮遊砂粒子応答スケールの比に対する浮遊砂堆積条件の一般化:ここでは微地形の測量と細粒土砂堆積の調査を実施した。土砂の流送特性(河床材料の粒度分布、河川流況)が異なる揖斐川、庄内川について現地調査を行い、掘削サイトにおける土砂の再堆積状況、微地形の特徴、微地形と植生の関係性について検討を行った。現地調査の結果、両河川に共通して見られる植物種の生態や形態が、土砂堆積に及ぼす影響の観点からいくつかのタイプに分類できる可能性が示唆された(原田、赤堀、片桐)。また庄内川ではH28年9月の出水の前後でSfM-MVSに基づく微地形測量を実施し、地形変化の状況を高解像度で把握した。この際、UAVの使用が困難な状況でも対応可能なポール取り付け型のカメラによる高所撮影を適用した。結果から、草本による植生群が、捕捉した細粒土砂を出水期間中保持する傾向があることがわかった(赤堀、石黒)。さらに庄内川を対象としたH27年9月出水の数値解析と現地細粒土砂堆積の比較からは、植生後流周波数と堆積土砂粒径の関係性が、現地河川と水理実験では必ずしも一致しないことが確認された(赤堀、石黒)。 3.初期植生進入過程の物理的機構によるシナリオの確定:水路実験より河床形態と種子の定着特性を把握するとともに、植生分布の違いが流路変動特性に及ぼす影響について検討した。その結果、植生分布の違いは流路本数の減少と流路変動に明瞭な影響を与えることがわかった(川村)。また前述のH28年9月出水の庄内川での土砂堆積の検討からは、草本域が継続的な微高地形成を助長する傾向を示したと考えられる(赤堀、石黒)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画において予定していたタスクに関しては、揖斐川や庄内川を対象とした高頻度観測(赤堀、原田、石黒、片桐)、寒地土木研究所での実施となる水理実験(赤堀、川村)共に、順調に計画を実施できたと考えている。揖斐川での観測はH28年度内の実施回数は限られていたが、十分に存在する既往研究データを補足するものであり、担当者間での情報共有するための現地観測が主体となった。庄内川での観測は、主に2箇所の観測サイトにおいて、各3回程度の観測を実施し、年間を通して現地における微地形および植生の繁茂状況の変化を追跡し検討することが可能であった。寒地土木研究所での水理実験に関しては、基礎的な知見として植生分布がもたらす河床変動への影響の検討を実施した。これらの成果を通し、草本を主体とした植生に関しての初期の進出と、細粒土砂の堆積について、おおよそのメカニズムに関し理解が進みつつある。一方で、当初に想定していた植生後流周波数を中心とした物理的なパラメータからの説明に関しては、現地河川での適用性について十分でないことが判明しており、別の要因を検討するための水理実験の実施が必要となった。これに関しては既に予備的検討を完了している。なお、研究実施計画においてH28年度の主要な検討項目として挙げていた、十勝川水系札内川での人為的なフラッシュ放流(事業実施者:北海道開発局帯広開発建設部)については、実施予定期間の水位等の状況のために事業自体が実施されなかった。この計画出水前後の観測を詳細観測サイトとして予定していたため、集中観測による詳細なデータが得られていない状況である。さらに同年8月の北海道豪雨災害による被災状況を鑑みると、研究計画年度内の計画出水に関しては実施が不透明な部分がある。このため、当面は前述の揖斐川や庄内川での観測の比重を増やす予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度の研究実施計画では、H28年度の研究実績に示した3点のタスク の継続とともに、数値モデル構築の具体的な作業を開始することを目標としている。 タスク1.および2.に関しては、「現在までの進捗状況」に述べたとおり、植生後流以外をパラメータとした細粒土砂の堆積要因の検討、および詳細観測サイトとして予定していた札内川での観測に対する代替的な手法の検討が必要となった。前者に関しては既に予備的検討を完了しており、H29年度の早い時期に本実験を実施する予定である(川村、赤堀)。後者に関しては、今後のフラッシュ放流の実施が確実ではないことから、札内川での調査の機会を伺いつつ、既に高頻度観測を実施している揖斐川、庄内川での現地観測に比重を移行する予定である(赤堀、原田、石黒)。これらの河川ではADCP等の高度な機器によるデータの供与は想定されていないが、数値解析的な手段を併用することで、面的な水理情報を推測していく。また、札内川を擁する十勝川水系では北海道豪雨災害における大規模出水により河道形状の大幅な変化が生じており、植生域の流失や、氾濫域での土砂堆積などが報告されている。本研究計画における対象は中小規模の出水に限定された流況平滑化河川であるが、このような大規模出水の際の土砂堆積状況との対比のために、可能な範囲内で十勝川水系における北海道豪雨災害の被災状況について情報収集を行なう(川村、赤堀)。 4つ目のタスクである数値モデル構築に関しては、当初から複雑で汎用的なシステム構築を目指すことは避け、細粒土砂のソルバー部分に関する基本的開発を優先する。ここでは、既往のモデル(iRIC, http://i-ric.org/ja/)による流れの解析情報をバイナリデータとして抽出し、提案する浮遊砂モデルによる細粒土砂の輸送についてOne-wayモデル形の計算を行なうことを想定している(赤堀)。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた札内川フラッシュ放流前後での観測について、本テーマにおける代表者および分担研究者による観測体制が簡略化され、現地観測補助として予定していた人員への人件費が使用されなかったため。さらに、札内川でのフラッシュ放流の実施自体が見合わされることとなり、事後における観測も実施しなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
札内川でのフラッシュ放流の実施が、H28年8月の北海道豪雨災害を受けて不透明となったが、中小規模の出水を対象とした本研究テーマへの対比として、上記の大規模出水後の資料整理、調査を検討している。このための北海道でのうちあわせまたは現地踏査のための旅費として使用予定である。
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