本研究は,粗粒化した河床へ覆砂を行うことで礫の移動を容易にし,固定化した流路を再変動化させる効果とその条件を明らかにして,覆砂の運用方法を検討することを目的としている.本年度は研究の最終年度として,コロナ禍によって制限を受けていた国際会議論文の執筆に当たると共に,高い砂含有率を有する二粒径混合砂礫における礫の移動限界に対して追加実験を実施し,現象の実験的裏付けを明確にした.また,残されていた低水路の変動に及ぼす高水敷への覆砂の面的効果について水路実験に基づいて検討した.これらによって得られた結果を以下に要約する. 1.砂含有率が0.4以上を有する二粒径混合砂礫における礫の移動限界を調べる実験を実施し,砂含有率の増加に伴って礫の移動限界は上昇することを確認した.この実験により,従来の研究では必ずしも明確ではなかった同一エネルギー勾配条件下での水深と礫の移動個数の関係を,系統的に把握することができた. 2.低水路の変動に及ぼす覆砂幅の影響について,低水路幅は,高水敷に占める覆砂幅の割合が大きいほど広くなることが確認された.一方,低水路深さは,覆砂幅の割合が大きくなると浅くなる傾向にあるが,一定割合以上ではその傾向は見られないことが明らかとなった.このことは,低水路に流れ込む砂礫の量は必ずしも覆砂幅に依存せず,一定の影響範囲があることを示唆していることがわかった. 本研究では,ダム下流河川における河床低下や粗粒化による流路の固定化に対して,粗礫層への覆砂に着目し,砂礫移動の物理機構を明確にすると共に,流路変動に及ぼす覆砂の効果について検討した.検討内容は,砂礫移動から流路変動に及ぶものであり,河川回復に効果的な覆砂の検討に資する一定の成果を得ることができた.なお,これまでの成果は実施状況報告書に示すほか,論文や学会発表を通して随時公表している.
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