研究課題/領域番号 |
16K06556
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
山崎 宏史 東洋大学, 理工学部, 准教授 (30573703)
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研究分担者 |
蛯江 美孝 国立研究開発法人国立環境研究所, 資源循環・廃棄物研究センター, 主任研究員 (90391078)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 浄化槽 / 温室効果ガス / ORP |
研究実績の概要 |
本研究は、分散型の生活排水処理施設である浄化槽における低炭素化を目指す基盤的な研究である。本年度の研究では、埼玉県および岩手県の浄化槽法定検査機関およびその地域住民の協力が得られた既設置浄化槽に対し、その各浄化槽からの温室効果ガス排出量および水質を測定し、その関係性について解析を行った。 その結果、CH4に関しては、浄化槽を構成する嫌気槽の他、生物反応槽からもCH4排出が多い事が明らかとなった。生物反応槽は好気槽であるが、生物反応槽のDOが3.0mg/L以上存在していても、CH4が発生していることが明らかとなった。これらの結果は、①嫌気槽でCH4が生成され、汚水と共に生物反応槽へ流れ込み、生物反応槽のばっ気によって排出(脱気)した、②生物反応槽における生物膜の肥厚化等により生物膜内部の一部が嫌気化しCH4が生成した、③生物反応槽の底部に堆積した汚泥の一部が嫌気化しCH4が生成した、等の理由が考えられた。 一方、N2Oに関しては、嫌気槽、生物反応槽問わず、ORPが+100mVや-50mV付近にあり、かつNO2-N濃度が0.3mg/L以上存在していた時に、N2O排出量が増加している傾向が認められた。これらの現象は、ORPが+100mVや-50mV付近では、それぞれ、硝化反応や脱窒反応が速やかに進行していないことが原因であると考えられた。一方、上記条件を満たしているにも関わらず、N2Oが発生していない場合や、その逆の場合も存在した。これらの原因を追究するために、浄化槽に対し、浴槽水の抜栓等による急激な流入を実施した結果、流入に伴う生物反応槽における急激なORPの変化がN2O発生を促す傾向が認められた。これらの結果から、浄化槽への流量調整機能の付加により、生物反応槽における急激なORPの変化を抑制することで、N2O発生を抑制できる可能性があるという糸口を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究として、浄化槽の各単位装置からの温室効果ガス排出特性について調査解析を行い、その影響因子を明らかにすることを目的としていた。 一般家庭に設置されている浄化槽の各単位装置から排出される温室効果ガス量および各単位装置の水質性状を調査し、単位装置の構成や運転操作条件の違いが温室効果ガス排出特性に及ぼす影響を解析した。その結果、浄化槽の高度処理型等に多く用いられている流量調整機能の有無がN2O排出量に大きく影響を及ぼしていることが明らかとなった。調査した浄化槽の中で、流量調整機能有りの浄化槽嫌気部(1次処理)から平均2.9gN2O/人・年、生物反応槽(2次処理)から平均12.1 gN2O/人・年のN2Oが排出されていたが、流量調整機能無しの1次処理から平均4.7gN2O/人・年、2次処理から平均90.1 gN2O/人・年のN2Oが排出されていることを確認できた。この結果から、浄化槽からのN2O排出は、概ね2次処理から発生していることが明らかとなった。さらに、流量調整機能有りと流量調整機能無しの比較では、1次処理からのN2O排出に関しては有意な差は認められないものの、2次処理からのN2O排出に関しては、約7.4倍にもなり、流量調整機能が付加されることで、N2O排出量を大きく削減できることが明らかとなった。また、これらの結果は、流量調整機能無しの浄化槽において、一度に多量の流入水が流入した場合、2次処理におけるORPが急激に低下することがN2O排出に影響を及ぼしていることを明らかとした。 一方、研究計画では汚泥滞留時間とGHGs排出量との関係についても解析を行うとしていたが、研究開始から浄化槽汚泥の貯留期間の目安である1年が経過しておらず、この部分の解析が遅れている。平成29年度早々には、浄化槽汚泥とGHGs排出量の関係について、調査したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画として、申請書に記載した「研究計画」通り、一般家庭に設置されている浄化槽からの温室効果ガス排出特性に関する調査研究を継続するとともに、その調査研究において得られた結果を基に、解析を進め、浄化槽における温室効果ガス排出に及ぼす影響因子を明らかにすることを目的とする。特に、平成28年度の研究成果において、ORPが100mV付近、-50mV付近でのN2O排出量が多いことから、このORP帯を避けた浄化槽の運転方法として、循環水量の制御、ばっ気空気量の制御等による温室効果ガス削減なども検討していきたいと考えている。また、平成28年度研究で遅れている浄化槽汚泥と温室効果ガス排出量の関係についても、調査を実施する。 一方、モデル浄化槽を用いて、標準的な運転操作方法における各単位装置からの温室効果ガス排出量、溶存態温室効果ガス量を調査し、一定期間、稼働させることにより、BOD-CH4転換率、TN-N2O転換率等を明らかにし、解析に必要な基礎的な情報を得る。さらに、その解析結果を基に、浄化槽からの温室効果ガス排出に影響を及ぼす因子を特定し、その影響因子を制御することによる温室効果ガス排出削減を可能とする浄化槽運転操作条件等について検討し、温室効果ガス削減対策について提案する。 さらに、N2Oが水に溶解し易い気体であることを踏まえ、N2Oを含むガスを外部で循環させ、槽内に再溶解させることで、温室効果ガスの削減効果について検証を行う。具体的には、浄化槽上部空間に排出されたN2Oが臭突管を通過し、大気中に温室効果ガスとして放出される前に、ブロワによりその一部を吸気することで、浄化槽内に再ばっ気させ、嫌気槽や好気槽に溶解させる手段について検討を行い、N2Oの再硝化や再脱窒による温室効果ガス削減の可能性について、チャレンジ的な検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の配分額に対する支出合計の割合は、94%と概ね計画通り、執行できた。しかし、「現在までの進捗状況」にも記載したが、平成28年度における研究計画では、汚泥滞留時間と温室効果ガス排出量との関係についても解析を行うとしていたが、研究開始から浄化槽汚泥の貯留期間の目安である1年が経過しておらず、この部分の調査解析が遅れている。その分の予算が次年度使用額となっている。
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次年度使用額の使用計画 |
「今後の研究の推進方策 等」にも記載したが、平成29年度においては、浄化槽汚泥と温室効果ガス排出量の関係についても、調査解析を実施するため、その予算に充当する。
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