本研究では,高強度緊張材の「能動横拘束(あらかじめ柱を強く締め付けること)」によって地震で被災した損傷鉄筋コンクリート(RC)柱の「ひび割れを閉合」し,建研式加力装置による水平加力実験,万能試験機による圧縮実験の2種類の構造実験から,能動横拘束が損傷RC柱の圧縮性能やせん断伝達機構に与える影響を明らかにする。本研究で用いる高強度緊張材は,アラミド繊維ベルトである。地震被災RC柱のひび割れ閉合を実現するには,受動横拘束より能動横拘束がはるかに効果的であり,能動横拘束は,損傷により低下したRC柱の軸支持能力を回復させ,かつ,アラミド繊維ベルトによるせん断補強によって能動横拘束損傷RC柱は曲げ破壊する。一方,能動横拘束損傷RC柱のせん断力の伝達,また,せん断強度については明らかでない。 2019年度の目的は,能動横拘束した損傷RC柱のせん断力の伝達機構を検証することである。そのため,主筋の付着がある柱試験体と主筋の付着を除去した柱試験体を製作し,トラス機構とアーチ機構を実験的に検証した。 製作した柱試験体は,圧縮実験を行うACシリーズが3体,水平加力実験を行うERシリーズが6体の計9体である。得られた結果を以下にまとめる。(1)せん断破壊したと考えられる,主筋の付着がある能動横拘束損傷RC柱試験体において,残留ひび割れ幅の小さい柱試験体の最大水平耐力が,残留ひび割れ幅の大きい柱試験体より小さくなったのは,せん断損傷実験での繰り返し数が多かったためと考えられる。(2)主筋の付着を除去した柱試験体の最大水平耐力は主筋の付着がある柱試験体より小さかった。これはトラス機構のせん断力負担が発生していないためである。(3)トラス・アーチのせん断伝達機構を構築した。このモデルの妥当性をせん断損傷実験結果で確認したうえで能動横拘束損傷RC柱へ適用したところ,実験結果を概ね説明することができた。
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