本研究では、短周期地震動や衝撃荷重等の高加速度応答を経験した耐震壁付き鉄筋コンクリート造建物の残存構造性能を明らかにすること、あるいは、振動計測に基づく構造ヘルスモニタリングの実用化を促進することを目的として、鉄筋コンクリート耐震壁部材を対象として地震経験に伴う剛性や耐力の変化を実験的に評価し、その変化が発生するメカニズムを解明することを目標とする。平成30年度は、前年度までに得られた実験データの信頼性を向上させるための『追加試験』と、本研究での小型コンクリート試験片の力学データの実規模建物への適用性を検討するための『既往振動実験データ分析』を実施した。 『追加試験』は、昨年度までの実験での水平変形測定値にはコンクリート試験片の変形量だけでなく力学試験機固定部分の変形量も含まれているため、実測値から試験片のせん断変形量を推定する方法を構築した。具体的には、アルミ試験片の表面に変位計6本を格子状に配置した上でせん断載荷試験を実施して、試験片に発生するせん断変形を直接的に測定した。その上で、水平変形量データの誤差補正法を構築した。そして、これまでに本研究で得た実験データを正しく補正した。 一方で、『既往振動実験データの分析』では、(国研)防災科学技術研究所E-ディフェンスにおいて2010年12月に実施された4層鉄筋コンクリート建物実験(RC建物実験)を対象として、地震経験と剛性低下の関係を分析した。このRC建物実験では、耐震壁付きRC建物に徐々に大きくした地震動が複数回にわたり与えられており、それらの主要加震の前後に付与された小加震データと、研究代表者が本実験時に測定した常時微動の連続データを用いて、加震経験に伴う剛性低下率を評価した。その結果、実大建物の剛性低下の推移は本研究で評価されたコンクリート試験片の剛性低下率と調和することが確認され、実規模建物への適用性を検証できた。
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