本研究では,与えられた年限(3年間)で次の3つの課題に取り組んでいる。(1)保育器内の音環境の目標設定,(2)微細穿孔板(MPP)の形状・仕様決定,(3)音環境を向上させた保育器の提案,である。最終年度の平成30年度は,前年度に引き続き課題(2),そして主として課題(3)に取り組んだ。 課題(2)では,前年度に実験的に明らかにした複層のMPPで得られる吸音効果を数値シミュレーションにより可視化し,より広帯域に安定して吸音効果が得られる複数種類のMPP仕様の検討を進めた。課題(2)の研究成果を音響計測器メーカー主催のセミナーで公表したところ,保育器製造メーカーの賛同が得られ,協働して研究を実施することになった。保育器内の音環境は,その重要性が医療分野においても注目されているようであり,先行研究である本研究の成果を社会に還元することが望まれていると強く感じた。 課題(3)では,医療現場で信頼して利用してもらえる吸音技術にすべく,保育器製造メーカーの開発担当者と協働でMPPの設置可能な位置や範囲について議論を重ねた。その結果,MPPを組み込むことによる静穏効果を,保育器実機に対して実験的に検証することが可能になり,MPPを組み込んだ保育器を提案する見通しが立った。また,メーカー担当者との議論の中で,保育器内の静穏性向上のためには吸音だけでなく,保育器下部に設置されている設備からの騒音の遮断も求められていることが明らかになり,新たな課題の発見にもつながった。
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