研究課題/領域番号 |
16K06619
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
長井 達夫 東京理科大学, 工学部建築学科, 教授 (00316001)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 熱画像 / 熱貫流率 / サーモカメラ / 隙間風 |
研究実績の概要 |
熱画像法による部位の熱貫流率測定に関する精度について、不確かさの評価方法による検討結果は、サーモカメラによる表面温度差(ETセンサーの表面温度と測定対象部位の表面温度の差)に関する誤差に起因するものが大半であった。この結果を更に吟味した結果、高断熱壁体や十分な加熱を行わない場合の熱画像法(による部位熱貫流率測定)は十分な精度を発揮できない懸念があることを確認した。 上記の理由により、今年度は、当初設定したもう一つの研究目的である、熱画像法の新たな利用法に関する検討を中心に行った。具体的には、他の研究者らが提案している部位熱貫流率測定法について検討を行った。この方法は、開口部に熱抵抗が既知の断熱材等を複数設置し、その室内側表面温度と測定対象部位の室内側表面温度の比較より対象部位の熱貫流率を推定する方法である。この方法について、既往の研究では室内空気温度と表面温度の差に着目していたのに対して、ETセンサーを用いた環境温度と表面温度の差に着目することによって、両者の表面部位におけるMRTの違いを反映させることができ、実験室実験、フィールド実験とも、整合性(温度差と熱貫流率の間の線形性の高さ)を高められる可能性が高いことを確認した。また、熱画像による同様の測定の結果、熱電対を用いた測定とほぼ同等の結果が得られたことから、1点でなく、間柱等を含めた一般部の平均熱貫流率の測定が可能との見通しを得ることができた。 また、熱画像による定性的な性能把握の一つとして、玄関ドア周囲の隙間風の有無を熱画像から判定できないか検討を行った。その結果、ドア周囲にシールを貼る前後の熱画像の変化より隙間風の有無を見分けられる可能性があることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
不確かさによる評価結果より、熱画像による熱貫流率測定の精度向上には、サーモカメラの温度差に関する測定精度向上の他、内外温度差の十分な確保が必要であることから、従来提案されている方法を特に高断熱壁体に適用する場合には必ずしも高い精度が得られるとは限らないとの見通しを得たため、従来法による熱貫流率測定の測定精度向上に関する検討に割く時間を十分には確保しなかった。このことから当初設定した精度向上の目標が十分に達成できたとは言えない。 しかしながら、もう一つの目的である、熱画像の新たな利用法については、標準板を用いた熱貫流率測定法、隙間風の有無の同定についてある程度の見通しを得ることができたため、おおむね順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、従来からの部位熱貫流率測定のための熱画像法というよりは、新たな熱画像法の適用に関する検討に重点を置きたい。その際、手法の普及を考えると以下のようなニーズを考慮する必要がある。①壁にセンサーを貼付したくない、②1時刻の測定で済ませたい。あるいは一定期間放置しておいて測定したい、③厳冬期以外でも測定したい。これらのニーズも考慮した上で例えば以下の検討を行う。 (1)隅角部等の表面結露の危険性判定法:外皮を室内側から一定期間測定した熱画像を用いて、表面結露の危険が予想される部位の表面温度と内外温度の関係を導き、厳冬期における結露の危険性を推定する手順について検討する。 (2)1時刻熱画像による部位別熱損失割合の把握:研究代表者らは既にステンレス製の半球ミラーとサーモカメラを用いて部位別の熱損失割合を把握する試みを行っているが、時間と測定装置の簡略化のため、1時刻の手動による熱画像から部位別の熱損失割合を推定する手順について検討を行う。 (3)局所加熱による非定常部位断熱性能把握の検討:夏期でも計測できるようにするため、室全体を加熱するのではなく、対象部位の室内側表面を加熱する方法について検討する。既に1次元熱流に近づけるために加熱板を大きく取った場合の検討はなされているが、加熱面積を小さく取り、室内側への熱の逆流の大小により対象部位の断熱性能の良否を判定する方法について、既往研究のレビューおよび新たな方法の提案について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、必要な費用を見積もる際に、データロガーを考慮したが、必要個数に若干の差異が見られたため。また、計上していた旅費を執行しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな研究課題の遂行に向けて、熱流センサーや、熱電対等の消耗品、およびサーモカメラのレンタル料等の費用に使用する。
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