研究課題/領域番号 |
16K06623
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
奥山 博康 神奈川大学, 工学部, 教授 (70393543)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 熱損失係数 / 相当隙間面積 / 現場測定法 / システム同定 / 最小二乗法 / 移動平均 / 低周波濾波 / 信頼性評価法 |
研究実績の概要 |
実態の住宅の熱・換気性能は,経年劣化や施工技術や様々な事情により,設計とは大きく異なる場合があるので,現場測定法を研究している.本研究代表者が考案した最小二乗法を基本としたシステム同定理論は計算機実験で検証したが,実際の測定システムとして試作し,実験的研究が必要である.平成29年度は次の研究開発を行った. 1.熱性能測定法に関して: 実用性を考慮し試作したサイリスタ制御方式の正弦波発熱制御装置で実験した.電熱発熱と測器類の消費電力も最終的に全て熱になるが,平成29年度は28年度よりも精度の良い電力センサーに替えて実験した.そして熱損失係数等の推定の信頼性の評価に必要な測定不確かさ標準偏差を求める方法の検討を行った.また単室だけでなく,多数室へも適用できる測定データ分析計算プログラムの開発も行った.平成30年度も試作装置と分析法を実験と理論の両面から研究し研究発表も行っていく. 2.換気測定法に関して: トレーサガスとする炭酸ガスをガスボンベから,既製の流量制御装置とPC制御により正弦波形で室に放出するのではなく,より経済的な方法をめざし,炭酸ガスはアルコールの燃焼で発生させることにし,アルコール流量をシリンジ(注射器)と機械的なカムにより正弦波流量に制御する装置を考案し,試作して実験した.しかし結局は複雑で高価になりそうなことが分かった.今後は炭酸ガス発生方法を変更して,実用的で簡易的な方向性の中で発展させていきたい. 3.気密性測定法に関して: これも本研究代表者の考案による最小二乗法を基本とした相当隙間面積等を推定する理論に特長がある.送風機を用いて屋内を加圧または減圧し,内外差圧と風量を百点程度で自動測定する装置を開発し実験できるようにした.また指数則モデルと二次式モデルの比較検討も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
換気性能測定のための正弦波の炭酸ガス発生装置を試作し実験したことによって「今後の研究の推進方策」に後述する,より経済的で実用的な簡易法を思い付くことができた.一方,熱性能測定のための正弦波の電熱発熱装置は,より精度よく発熱し測定できる様になった.気密性の測定法に関しては,指数則モデルと二次式モデルの二種類の基礎方程式の関係が明確になってきた.さらに単室モデルに限らず,多数室モデルにも適用可能な測定システムの開発を始めることができた.
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今後の研究の推進方策 |
1.熱性能測定法に関して: 単室用に試作した発熱制御装置と測定装置は,ほぼ狙い通りの結果を出したので,これらを多数室測定用に拡張し適用し研究していきたい. 2.換気測定法に関して: 試作した炭酸ガス発生装置の欠点があきらかになって改良する方法も思い付いたので,さらに実用的で簡便な方向の中に位置づけて展開していきたい.多数室換気測定法としては,アルコール燃焼によるのではなく,炭酸ガスボンベからマスフローコントローラーをPC制御する方法を改良して適用する. すなわちアルコール燃焼による炭酸ガス発生方法は,より簡便な測定法として発展的に展開できる可能性がある.例えば,小さな調理用の固形アルコール燃料がある.これを燃やすと一定のガス発生とは言えないが,全燃焼時間の総発生量は正確に見積もることができる. 一方,本研究では,変動する濃度測定値に最小二乗法を適用する.この場合に低周波濾波として,ある程度の時間の移動平均を施しておくのが良いことが今までの研究で分かっている.そこで燃焼時間と同じ時間の移動平均を施せば,一定のガス発生流率ではなくても悪影響は小さいと考えられる.つまり精密なガス発生流量制御ができなくても,測定データの前処理により対処できると思われる.ただし,こちらはあくまでも簡便測定法の位置づけとして研究を進めたい. 3.気密性測定法に関して: 従来の,数点の測定値により相当隙間面積を推定する測定法に比べて,多数の測定点を得て,統計的に推定する方法なので,精度も信頼性評価も良くなった.今後は測定法としての検証を重ねていくだけではなく,基本的な隙間の数式モデルの検討を行っていきたい.
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