JR熊本駅を挟む北地区(5km)と南地区(12km)は、新幹線と在来線が隣接並行して走行する区間である。平成29年度は、南地区の熊本駅-宇土駅区間において、新幹線開通前後および在来線高架化前後における鉄道の騒音・振動測定ならびに沿線住民への社会調査をそれぞれ実施し、騒音・振動暴露量と社会反応(在来線と新幹線の暴露反応関係を比較すること、九州新幹線が沿線住民に与える影響およびその要因の把握)、新幹線や在来線の敷設状況の変化に対する社会反応の変化について分析した。 平成29年度および平成30年度調査結果を総合的に分析した。特に、九州新幹線の開通(2011年3月)や同地域での在来鉄道の高架化と新駅開業(2016年3月)に伴う暴露量の変化,これらの事業の直後に起こった熊本地震(2016年4月)の影響を検討した。その結果,震災後の結果では,鉄道騒音の全体的な暴露量は減少したにも関わらず,不快感は有意に増加していた。その原因として,熊本地震後に頻発した余震と地鳴りによって沿線住民は振動や騒音に対して敏感に反応するようになり,振動が伴う鉄道騒音の不快感が増加したものと考えられた。阪神大震災以降,震災後のPTSD等の心理的ストレスに関する研究は数多く実施されているが,ここで見られた鉄道騒音に対する過剰反応は,不快感の増加という問題だけでなく,騒音・振動が地震の記憶を誘発するストレス要因となる可能性も示唆しており,極めて重要な問題を含んでいる。同時に,地震以外にも台風や豪雨など,近年,我が国で多発している自然災害による被災後のストレスも,騒音や家屋のがたつき・震動と関連している可能性が考えられる。
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