研究課題/領域番号 |
16K06630
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
今西 一男 福島大学, 行政政策学類, 教授 (40323191)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 都市縮減社会 / 住居系市街地 / リスケーリング型整備手法 / 遊休空間 / 地域自治組織 / 土地区画整理事業 / 地区計画 / まちづくり条例 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は人口や経済の規模が縮小する「都市縮減社会」の住居系市街地で生じる遊休空間(低未利用の土地・建物)、ならびに既存の地域自治組織を合わせて再編する「リスケーリング型整備手法」の制度設計と適用可能性検討を行うことにある。 このため三つの研究課題を設定し、各年度一つずつ検討する。各年度は半期(ステップ)に分け6段階で研究を行う。平成29年度は「研究課題(2)地区・街区を架橋する土地・建物の交換・分合の可能性検討(ブリッジ)」を扱い、ステップ3・4の研究を実施した。 ステップ3:遊休空間の交換・分合による地区・街区の適正規模化の事例検討…遊休空間を再編することから、地区・街区の適正規模化ないし機能更新にとりくむ事例を抽出、検討した。具体的には①人口減少局面の境界にある首都圏30~40km圏に位置する上尾市上平第二地区におけるまちづくり条例を活用した地区・街区再編の可能性検討、②全国の地域自治組織の再編状況をふまえ、合併により生活課題の解決を図る長野市若槻団地の事例検討、③福島市蓬莱団地を事例とした地域自治組織再編の検討や遊休空間の把握、を進めた。 ステップ4:地区・街区を架橋する土地・建物の交換・分合の事例検討…地区・街区を架橋して行われた遊休空間の交換・分合をめぐり、その制度上の課題や整備上の効果について検討した。具体的にはステップ3①の事例検討とともに、④同じ埼玉県における「暫定逆線引き地区」の現状を知ることから、低未利用の土地・建物を漸進的に市街地整備の俎上に載せる際の課題検討を進めた。また、⑤として東京都の「不燃化特区」を事例に、既成市街地の遊休空間や宅地の交換・分合による市街地整備の可能性について検討を進めた。 以上の他、土地・建物の交換・分合の手法である土地区画整理事業や市街地再開発事業に関して猪苗代町、仙台市、広島市、板橋区等で情報収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示したとおり、平成29年度はステップ3・4の研究を実施した。ステップ1・2の研究から内容を継続し、発展的に進めることができたと考えている。 まずステップ3・4に共通して、都市縮減社会という人口や経済の規模が縮小する状況を意識して研究を進めることができた。具体的には上尾市上平第二地区の事例検討を進めたが、人口減少局面の境界を特定するとともに、そこでの土地利用転換、特に相続を契機とした低未利用の土地・建物の変動をつぶさに観察することができた。並行して、まちづくり条例に基づくまちづくり協議会が主体となって地区・街区の課題を改善していく様子を検討することもできた。その成果は日本都市計画学会編集・発行『都市計画報告集』に論文として発表できた。また、ステップ4に入って同じ埼玉県の暫定逆線引き地区について調査を開始することができた。ただし、その自治体を横断した調査や詳細な事例検討は平成30年度に引き続き行っていく予定である。 そして、既存の地域自治組織の再編に関しては、ステップ2で実施した全国136自治体を対象として130自治体から有効回答を得た調査票調査に基づいて研究を進行できた。特に地域自治組織再編の制度を有する自治体を把握したこと、また自主的な合併により生活課題の解決を図ろうとする長野市若槻団地の事例研究を進めたことなど、一定の成果が得られた。その成果は都市住宅学会編集・発行『都市住宅学』に論文として発表できた。 以上のようにステップ3・4では研究発表も含めて進捗を図ることができたので、「おおむね順調に進展している」と評価した。しかし、上記暫定逆線引き地区や、別途着手した東京都の不燃化特区における市街地整備の検討については、平成30年度にさらに深化し、発表の機会も設けて行く予定であることから、現状では「おおむね順調」程度の評価とした
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度におけるステップ3・4の研究はおおむね順調に進展したので、当初の研究計画に即して平成30年度以降の研究も推進する。そのためにも、平成30年度も引き続き既存の研究や統計の収集・検討を進めるなど、基礎的な作業を継続していきたい。そして、平成29年度に積み残した研究発表については、論文等の執筆を進めて公表を図ることとしたい。 その上で、平成30年度は「研究課題(3):地域自治組織を市街地整備の主体とする組織的再構築(リストラクチャリング)」に関する研究を推進する予定である。この研究では、遊休空間の交換・分合による地区・街区の再編には住民間での協議が必須であり、さらには住民自身が事業主体となる可能性を追求する必要もあるとの問題意識から、市街地整備の進捗に地域自治組織を組み込んだスキームの検討を進めることが目的となる。その際、人口の減少や高齢化が進む都市縮減社会の現状をふまえ、地域自治組織の組織的再構築を組み込むことが重要な課題となる。そのステップ5・6の内容・推進方策は以下のとおりである。 ステップ5:都市縮減社会におけるリスケーリング型整備手法の制度設計…これまでの研究の内容をふまえ、リスケーリング型整備手法の制度設計を行う。遊休空間の交換・分合によって地区・街区の再編を進めて行く手法について、スキームの設計を行うことが目的となる。その過程で地域自治組織の組織的再構築も組み込んだ設計が可能か、引き続き事例検討を交えて考える。ステップ4で積み残していた暫定逆線引き地区や不燃化特区での市街地整備と、そこでの地域自治組織の位置づけなど、事例に厚みを持たせて検討する。 ステップ6:都市縮減社会におけるリスケーリング型整備手法の適用可能性検討…以上で設計した手法の適用可能性について、事例となる市街地を設定し、自治体や住民の意向を把握しながら研究全体をまとめるための知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
・理由…平成29年度においても計画的に研究費を使用していたところであるが、年度末に暫定逆線引き地区に関して該当自治体を対象に横断的な調査(調査票調査)を計画していたものの、企画を入念に行うため平成30年度に実施を持ち越すこととした。その他、見積額よりも安価に入手できた物品等があったこと、調査票調査実施等は人件費を要さず指導する研究室の実習と合わせて行う機会があったことから、残額が生じた。 ・使用計画…平成30年度において、上記理由の横断的な調査を行うことにしているので、早々に使用予定である。また、引き続き文献や統計等を収集するので、その購入にも充てる計画である。引き続き適正に使用していきたい。
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備考 |
研究発表に掲載した論文のいくつかは、福島大学行政政策学類社会調査論研究室ホームページより閲覧可能。
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