最終年度である本年度には、海外における補足調査2回(タイ、英国)を行ったほか、研究のまとめに相当する論文を公表し、関連団体において2回の講演発表を行った。 アジアにおけるBIM受容の実態調査の一環として行ったタイ調査では、市場グローバル化の進展とともに米英を中心とするモジュラー型BIMソフトウエアの急速な普及が確認されたが、仕様書作成機能に関してはその活用は今後の課題と判断された。英国においては、公共建築にレベル2のBIM採用を義務付けるBIM Mandate政策の実施状況、およびBIMに関連して米国で開発された発注契約方式IPD(Integral Project Delivery)に相当するPPC Alliance Contractsに関する調査を行った。その結果、対立型から協調型への変革を目指して1990年代にはじまった英国の建設産業政策は2010年代に入ってBIMとの関係を一層強め、設計・積算の実務の変革にいたる一貫した社会システムの変革が推進されていることが確認された。 英米の建築ものづくりはモジュラー型のアーキテクチャを前提に、標準分類、コーディング、仕様書作成システム等、建築の部分の記述法が共通言語として整備されており、そのことがBIM普及の土台になっている。一方、日本のBIMは施工BIMに専ら関心がもたれているように、日本の建築ものづくりの特性であるインテグラル(擦り合わせ)型アーキテクチャに支配されている側面が大きい。本研究はそのことを明らかにしたうえで、今後の日本におけるBIM普及の課題を整理した。その要点は、受発注者間の意思疎通促進、生産性向上、建築情報の利用段階での利用、オープン・イノベーション促進を可能にするためのモジュラー化促進、およびモジュラー型と併存しうるインテグラル型の設計をBIMシステムの枠組みに包摂して確立することの必要性である。
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