研究課題/領域番号 |
16K06656
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研究機関 | 宮城学院女子大学 |
研究代表者 |
厳 爽 宮城学院女子大学, 生活科学部, 教授 (60382678)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 治癒環境 / 精神科救急入院料病棟 / Evidence-Based Design / 看護拠点のあり方 |
研究実績の概要 |
本研究では新設された精神科救急入院料病棟(以下、精神科救急病棟)の治癒環境に焦点を当てる。当該病棟種は治癒と早期退院を目的としており、従来の精神科病棟の療養環境とは異なる空間環境を必要とする。しかし、その実態は把握されておらず、建築分野での研究蓄積もない。本研究では大規模リノベーションと建て替えを控えている精神科病院を対象に、EBD(Evidence-Based Design根拠に基づく設計)という視点を導入することによって、以下のことを明らかにすることを目的としている。①空間整備状況の実態、②空間利用の特徴の究明を通して「治癒環境」としての精神科救急病棟計画のための設計根拠を明らかにし、EBDの構築に資する提言を行う。 1年目に当たる平成28年度は①調査対象A 病院が大規模改修に入る前に、患者の治療(投薬、再入退院歴等)についての医師へのヒアリング調査、②看護スタッフの看護行為への追跡調査、および患者個々人を特定した行動観察調査、③B病院では建て替え前の医師へのヒアリング調査を実施した。 調査を通して、スタッフの看護業務のうち事務作業のためにスタッフステーション内での「単独滞在」がすべての病棟において非常に多いことが課題として浮かび上がった。また、重度かつ慢性期病棟には不安定な患者が多く、「スタッフに対する働きかけ」も多い。結果的にスタッフが病室に足を運び、患者の様子を観察したり共用空間で関わることが多くなっている。一方で、比較的安定している患者が入院している病棟では、スタッフが患者と関わる機会が少なくなっていることも明らかになった。 今後の大規模改修に関しては、共用空間を経由せずに病室へのアクセスが可能となっている現時点での改修計画案には見直しの必要があると思われる。また、看護のあり方に関しては、スタッフの患者に関わる意識を高める努力が不可欠であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた全国精神科病院の整備状況に関するアンケート調査は質問項目をより網羅的、明確的に設定するにあたり、1年目の調査結果を踏まえる必要があると判断した。よって、アンケート調査は次年度(平成29年度)に実施することとした。 その他の調査は計画通りに順調に実施した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に実施した精神科病棟のスタッフ追跡調査は各病棟につき、スタッフ2名を対象とした。しかし、スタッフの業務内容を把握するために、全スタッフの追跡調査が必要であることは分かった。平成29年度以降の研究実施計画は予定していた調査ほのか、病棟スタッフ全員の追跡調査も試みる予定である。詳細は以下に示す。 平成29年度は昨年実施しなかったアンケート調査、改修前のA病院でのスタッフ全員を対象とした追跡調査を実施する。また、調査①:B病院での建て替え前行動観察調査を行う。改修前のA病院での行動観察調査結果に合わせて、中廊下・多床室病棟の空間評価と課題抽出を行う。調査②:A病院の改修が終了2ヶ月後にヒアリング調査、3ヶ月後に行動観察調査を実施。A病院では「個室+中廊下・小規模ユニットの空間評価」を行う。研究成果として、建築改修等をせずにインテリア等の工夫による環境改善の可能性も提言する。平成30年1月に竣工予定のB病院においても、移転2ヶ月後に調査③建て替え後ヒアリング調査を行う。 平成30年度に実施する調査はB病院の建て替え後行動観察調査のみである。B病院においては「個室+クラスター型ユニットの空間評価」を行う。両病院の調査結果、先行研究結果の比較を通して、改修・建て替えの空間評価を明らかにする。また、空間の変化が患者の行動、治療効果への影響を通して、空間の小規模化・病室の個室化の有効性を検証しつつ、小規模ユニットの形の適正性を含めた精神科救急病棟における患者の空間利用特徴及び環境デザイン要素の空間要件を要約する。 以上の成果を基に、実践的成果③精神科救急病棟の環境デザイン要素を設計根拠として抽出し、精神科救急病棟のEBD構築に関する提言を行う。 一方で、リノベーションや建て替え計画の実施状況により、調査スケジュールは流動的である。
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