東日本大震災で被災した漁村集落では、被災地の近くの高台に集落ごとに移転する防災集団移転が多く実施された。その結果、小規模な団地が数多く分散する結果となり、地域コミュニティの持続性に課題を抱えている。本研究では、石巻市雄勝町名振地区を対象に、震災前から現在に至るまでの居住地の変遷や移転先での生活の定着具合、近隣コミュニティの継続具合をヒアリングや実地検証から明らかにすることを目指している。 名振地区の住民は震災前には4つの地縁的な小集団(講)に分かれていた。震災直後は被災者の多くは1箇所の避難所で集まって生活し、その後、地区内の2つの仮設住宅に居住していた。高台移転地は津波の被害を免れ災害危険区域に指定されなかった既存住宅に隣接して2箇所造成された。本研究では、平成28年度に高台移転をした20被災世帯中16世帯、38名を対象に3回の調査を実施した。ここでは、漁業の手伝いなどの生業に関する付き合い、寄合や冠婚葬祭、祭礼など、講に関する付き合い、おかずのやり取りやお茶っこなどの個人間の付き合い、消防団や老人会などその他の付き合いについて、震災前、仮設時、現在の3つの時制について、各々の付き合いの範囲を聴取した。この調査は、被災を免れた14世帯中10世帯18人に対しても行った。これによって、被災し高台に移転した世帯と被災を免れた世帯の近隣関係について比較が可能なデータを得られた。平成29年度には、雄勝町の16地区の防集団地について宅地選定方法や宅地、公営住宅入居者への公営住宅への評価などについて、114世帯に対してヒアリングを行うことができた。平成30年度には、研究成果の一端をまとめた論文「漁村小集落における防集団地の計画と宅地に関する住民評価ー東日本大震災における宮城県石巻市雄勝地区の復興を対象として」が日本建築学会計画系論文集に掲載された。
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