研究課題/領域番号 |
16K06669
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
信太 洋行 東京都市大学, 都市生活学部, 准教授 (70558155)
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研究分担者 |
Liao YuChia 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 客員研究員 (50750890)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | マンション / 維持管理 / BIM / 詳細度 |
研究実績の概要 |
維持管理促進のためのBIM手法を開発するにあたり、各専門家へのヒアリングを通じて維持管理BIMに求められるポイントを抽出した。 1.マンション修繕コンサルタント:調査時に使用する図面と現状が異なる事が多く、特に設備は隠蔽されている領域が多いため現状把握が困難である。配管ルート等の詳細が分かれば申し分ないが、少なくとも設備システム(系統)が分かる情報があれば調査効率が向上する。更に、劣化診断の精度を向上させるには、過去の修繕履歴が重要な情報源となるため、BIMモデルがそれらを引き出すインターフェースになると分かりやすい。また、修繕工事費の算定は、数量×単価を積み上げるため、部位別数量算定が可能なまとまりでモデリングされていると良い。但し、部位によっては複合単価になるため、これを考慮する必要がある。 2.再生建築を手掛ける設計事務所:改修レベルによって、現場調査の詳細度(破壊試験など)は異なる。管理組合が調査費に投資するレベルに応じてBIMモデルの詳細度が設定できると良い。B to C向きのモデルは、分かりやすさが肝要である。また、一般的に改修工事は12年周期であるため、BIMデータ自体の維持管理も配慮する必要がある。 次ぎに、マンション・リノベーション会社の協力の下、建物情報の再現方法を調査した。ヒアリングした会社では、メジャーを使った従来の寸法情報の取得の他に、試験的に3Dスキャニングによる点群情報の取得を行っている。点群情報の処理は、優れたソフトの開発により以前よりも格段に早くなったが、それらを3Dモデルに変換するには手間がかかる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
維持管理BIMに求められる要件に関しては、各専門家へのヒアリングを通じて抽出されたため、おおむね順調に進んでいる。維持管理BIMの利用者によって求められる詳細度が異なり、部位によっては、形状情報よりも過去の修繕履歴情報や設備の系統情報の方が有効となる事や、現状の建物情報を復元するための、より簡易な建物情報取得方法を検討する必要性などが、課題として明らかになった。昨年度はこれらの成果の他に、以下の2点も合わせて進めた。 1.昭和30年代の団地のBIMモデル化:集合住宅の典型的モデルである昭和30年代に建設された団地を対象に、Archi-CADを使ってモデリングした。このモデリングを通じて、日々進化しているBIM機能と入力手間を確認した。機能の1つであるリノベーションステータスは、「既存」「解体」「新築」の流れを1つのモデルで表現するもので、履歴情報の表現として有効であることが分かった。但し、ある一定の工事規模がなければ変化を認識しにくいため、有効となる工事範囲を検討する必要があることが明らかになった。 2.赤外線サーモグラフィの活用の検討:建物調査診断における1つの手法として、赤外線サーモグラフィの利活用が注目されている。これは、目視や打診、触診等では判断しにくい雨漏り等の異常箇所を効率的に発見するのに有効である。但し、異常箇所と正常箇所の温度差が1~2℃という僅かな温度差のため、判断を間違えると誤診に繋がる。例えば、外壁のある箇所が高温になっているためタイルの浮きが原因と判断したが、実は異なる面にある開口部からの日射が、その箇所の内壁を暖めた事が原因になる事もある。よって、より正しい判断をするためにBIMモデルと赤外線サーモグラフィ情報を組み合わせる手法を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
マンション修繕コンサルタントの協力の下、典型的なマンションを対象に維持管理BIM手法を検討する。現時点においては、湘南地区にある築22年のマンションを想定している。今年の8月下旬より大規模修繕工事が始まるため、調査段階から参画することで、建物情報の取得からBIM復元モデルの作成までを、コンサルタント会社と工事会社の意見を聞きながら進める予定である。 具体的には、以下の2点を中心に研究を進める。 1.申請時では、3Dスキャナーによる情報取得を想定していたが、ヒアリングの結果やソフトの技術革新等を考慮し、写真による情報取得→復元モデルを検討する。外側からのアプローチは、一眼レフカメラによる写真の統合化から、建物のボリュームモデルを作成する。内側からのアプローチは、360度カメラによる内観写真の統合化により、内装モデルを作成する。その後、これら2つのモデルを統合化し、技術的限界や作業手間を明らかにする。 2.BIMモデルの部位は、国土交通省のマンション管理標準指針で示される修繕工事項目を元に、概算見積を算出するのに適していると思われる形状分割で試みる。モデリングにあたっては、既存部と改修部の描き分け方や、形状情報に付随する属性情報、特に耐用年数に着目する。これは、マンション居住者のライフサイクルコストを配慮し、長期的かつ全体的な修繕計画を行う際に重要な目安になると考えるためである。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時では、少々高額な3Dスキャナーによる情報取得を想定していたが、ヒアリングの結果や写真から3Dオブジェクトを復元するソフトの技術革新等を考慮し、購入を控えたため。また、モデリングの対象となる物件が、本年の5月になるまで決まらなかったため、購入予定だったデータ処理用パソコンや、工事記録用ビデオカメラの購入を控えたため。それに合わせて、現状調査委託も行われなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
モデリングする対象物件が決まったため、必要な機材を購入する。具体的には、建物の外観情報の撮影に適したデジタル一眼レフとレンズ、写真を3Dオブジェクトに高精度に復元するソフトウエア、360度カメラの写真を統合化して3Dモデルにするソフトウエア、これらを処理するのに適した高速処理可能なパソコンを購入して研究を進める。 また、これらの作業を進める学生への人件費、協力会社への業務委託費への使用を予定している。
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