研究課題/領域番号 |
16K06677
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研究機関 | 呉工業高等専門学校 |
研究代表者 |
篠部 裕 呉工業高等専門学校, 建築学分野, 教授 (10196412)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 空き家 / 解体除却 / 跡地整備 |
研究実績の概要 |
人口減少に伴い近年、空き家の増加が著しい。総務省統計局の住宅・土地統計調査によると、我が国の空き家率は2013年には13.5%に達し、地方都市の中には空き家率が20%を超える自治体も見られるこれらの地方都市では、長期間使用されずに放置された空き家の老朽危険建物化が進んでおり、老朽危険建物化した空き家の速やかな解体除却と、解体除却後の跡地の適切な管理や活用が大きな課題とされている。今後は老朽危険建物化した空き家の「解体除却事業」と、空き家解体除却後の「跡地利用」の両者を総合的に捉え、住宅地の環境改善再整備に結び付けていく視点が必要とされる。 本研究は今後の空き家解体除却事業と跡地利用の総合的な整備施策に資する基礎的知見を得ることを目的としている。具合的には、所有者等に代わり地元自治体が主体となって空き家を除却する自治体主体型の事業(長崎市老朽危険空き家対策事業)と、所有者等による空き家の解体除却に対してその費用の一部を自治体が補助する自治体補助型の事業(呉市危険建物除却促進事業)を対象に、老朽危険空き家の解体除却とその後の跡地整備の実態を把握し、今後の課題を提示することにある。 2016年度は自治体主体型の事業として顕著な実績を有する長崎市老朽危険空き家対策事業を対象に調査を実施した。調査は長崎市まちづくり推進室から事業の基礎資料を収集し、この資料を基に現地調査や自治会ヒアリング調査を実施した。当該事業では2006年度から2015年度に合計46件の空き家解体と跡地整備が実施されている。調査の結果、跡地整備は主に地元住民の交流のための憩いの広場として整備されていることが明らかになった。 また、自治体補助型の事例として呉市を対象に基礎調査を行い、呉市危険建物除却促進事業の2011年度から2016年度までの事業実績に関する基礎資料を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度には、自治体主体型の事業を代表する長崎市老朽危険空き家対策事業を対象に、長崎市まちづくり推進室より入手した2006年度から2015年度の整備資料、まちづくり推進室に対するヒアリング調査(2015年11月、2016年9月)、現地調査及び地元自治会を対象とするヒアリング調査(2016年9月)を実施し、事業の全体概要を把握した。本事業が開始された2006年から10年間の全整備件数は46件(箇所)であり、これら全てを対象にした現地調査より、整備の全体像(対象建物や土地の面積、整備用途、整備費用、整備敷地の接道幅員、敷地の立地性、整備用途など)を明らかにした。整備対象となった敷地の立地条件は全ての敷地が自動車でアクセスできない狭隘道路に接道する敷地であった。また、跡地の平均整備面積は約150㎡、平均整備費用は約340万円であった。 本事業の特徴は、単に空き家除却に止まることなく危険空き家の解体除却後の跡地を住民の憩いの広場として整備する点にあり、46件中39件が主に憩いの広場として整備されていた。これ以外には駐輪場やゴミステーションとしての整備も一部にみられた。 また、その整備内容は維持管理に手間が掛かりにくいコンクリートによる全面舗装が殆どであった。地元自治会(5自治会)に対するヒアリング調査からは長崎市老朽危険空き家対策事業が空き家問題の解決に有効であるとする評価が得られた。整備後の公共空間に対する満足度も高く、現地調査からは全46箇所全てが適切に維持・管理されていることを把握した。その一方で、各自治会とも今後は地元住民の急速な高齢化が進展することにより、自治会としての維持管理の担い手不足が問題点として指摘された。 以上により、長崎市を対象とする調査により自治体主体型の空き家整備の現状を課題の概要を把握することができたため、上記のような区分評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
呉市はわが国の地方都市の中でも空き家率が高い自治体であり、2013年の空き家率は22.1%に達している。このような背景の下、呉市は2011年度より呉市危険建物除却促進事業に取り組んでおり、2011年度から2016年度までの6年間の呉市危険建物除却促進事業の認定申請は765件、交付件数(実際に除却され補助金を交付した件数)は501件、解体助成費用の総額は1億4,243万円である。今年度は2011年度から2016年度に実施された呉市危険建物除却促進事業の事業実績を、項目別或は地区別に集計・整理し、事業の全体像を明らかにする。 呉市危険建物除却促進事業は所有者が老朽危険建物化した空き家を解体除却する場合、解体除却費の一部(最大で30万円/件)を呉市が補助する施策である。解体除却後の跡地利用については、所有者等に委ねられている。 本研究では、昨年度、本事業で2011年度から2015年度に解体された空き家の中から呉市の中心市街地を形成する中央・阿賀・宮原・警固屋の4地区、合計261箇所を対象に空き家解体後の跡地利用の実態を基礎調査したが、本年度は新たに2016年度の事業実績を含め、改めて跡地利用の実態を把握するための現地調査を行う予定である。具体的には、敷地の接道幅員、標高、用途地域などの立地性と、利用用途(住宅用地利用、駐車場利用、菜園・畑利用、更地)の関係を考察する。また、地元自治会を対象にヒアリング調査を行い、跡地利用が進まないことでの問題点や跡地利用の促進に対する要望や意見を把握する。 以上の調査により、自治体補助型の呉市危険建物除却促進事業の成果と今後の整備課題を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の研究費用を利用したことにより当初計画よりも物品費やその他の費用の支出を少なくすることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に余った研究費については、平成29年度の調査において調査補助者や調査結果を集計・整理する謝金として有効に使用する予定である。
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