研究課題/領域番号 |
16K06677
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研究機関 | 呉工業高等専門学校 |
研究代表者 |
篠部 裕 呉工業高等専門学校, 建築学分野, 教授 (10196412)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 空き家 / 解体除却 / 跡地利用 |
研究実績の概要 |
本研究は今後の空き家解体除却事業と跡地利用の総合的な整備施策に資する基礎的知見を得ることを目的としている。具合的には、所有者等に代わり地元自治体が主体となって空き家を除却する自治体主体型の事業(長崎市老朽危険空き家対策事業)と、所有者等による空き家の解体除却に対してその費用の一部を自治体が補助する自治体補助型の事業(呉市危険建物除却促進事業)を対象に、老朽危険空き家の解体除却とその後の跡地整備の実態を把握し、両者を比較することで今後の課題を提示することにある。 2017年度は自治体補助型の事業として顕著な実績を有する呉市危険建物除却促進事業を対象に調査を実施した。本事業では2011年度から2016年度に呉市全体で合計501件の空き家の解体除却の補助が実施されており、呉市建築指導課から事業関連の基礎資料を収集・整理し、これらの資料を基に現地調査を実施した。本研究ではまず本事業で解体除却された501件の空き家の建物の特徴を、申請者の住所、建物の建方、構造・階数・用途、延床面積、建物危険度、解体除却費用、跡地利用などについて集計し、その特徴を明らかにした。更にインターネット調査により、空き家の存在した敷地の立地的な特徴を、標高や用途地域などについて明らかにした。これらの調査後に、呉市の中心市街地を構成する中央地区・阿賀地区・宮原地区・警固屋地区の4地区の279件の事例を対象として現地調査を実施し、解体除却後の跡地利用、敷地の周辺環境、敷地への自動車等によるアクセス環境について明らかにした。 調査の結果、跡地の立地条件が恵まれている跡地は、住宅や駐車場などの跡地がみられるが、狭隘道路に接する立地条件が恵まれていない跡地は、未利用で更地のままの敷地が多いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度の調査により呉市危険建物除却促進事業により解体除却された空き家とその跡地利用の実態を以下のように明らかにした。本事業により6年間で除却された501件の空き家のうち、8割以上は戸建てが占めており、殆どが木造であった。階数は一階建てと二階建てが半々を占め、用途としては専用住宅が9割以上、延べ面積は100㎡未満の小規模な建物の過半を占めることが分かった。空き家の敷地については中で、標高が40m以上の高いものや敷地の接道幅員が2m以下の狭いものが多い。このような立地条件の悪さから長期間放置され、危険建物化した空き家が本事業の創設を機に除却促進されたと考えられる。 一方、事業によって除却された空き家の跡地利用を、敷地の立地性、すなわち標高や接道幅員、自動車等によるアクセス方法などの立地条件から考察した。立地条件の良い跡地であれば住宅や駐車場として有効利用されやすい状況にあった。しかし、自動車でアクセスできない立地条件の悪い狭隘道路に接道する跡地は、跡地利用が進み難い状況にあることが明らかになった。これらの立地条件の悪い敷地のある地区は近年、人口減少が著しい傾向にあり、今後も新たに住宅としての利用は見込み難いと考えられる。従って、除却後に更地になることが予見される敷地については、地元自治体が地域住民と連携して例えば畑としての利用を増やす施策や、シート養生などによる更地の適切な管理を促す仕組みを整え、空き家除却後の空き地問題を未然に防ぐ対応が必要である。 以上により、自治体補助型の呉市危険建物除却促進事業により解体された空き家の特徴と除却後の跡地利用の概要を把握することができたため、上記のような区分評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は自治体主体型の事業として顕著な実績を有する長崎市老朽危険空き家対策事業を対象に調査を実施した。長崎市まちづくり推進室から事業の基礎資料を収集し、この資料を基に現地調査や自治会ヒアリング調査を実施した。当該事業では2006年度から2015年度に合計46件の空き家解体と跡地整備が実施されている。調査の結果、跡地整備は主に地元住民の交流のための憩いの広場として整備されているが、今後の高齢化を考慮すると施設の維持・管理が懸念されていることが明らかになった。 2017年度は自治体補助型の事業として顕著な実績を有する呉市危険建物除却促進事業を対象に調査を実施した。呉市建築指導課から事業の基礎資料を収集し、これらの資料を基に呉市の中心市街地を構成する4地区279件の現地調査を実施し、跡地利用の実態を明らかにした。立地条件が恵まれている跡地は住宅や駐車場などの利用がみられるが、狭隘道路に接する立地条件が恵まれていない跡地は、未利用で更地のままの敷地が多いことが明らかになった。 地元自治体や地元自治会が中心となり小公園などの公的空間として整備する自治体主体型の事業は、長崎市以外にも北海道室蘭市、富山県滑川市、福井県越前町などでもみられる。しかし今後、更に少子高齢化が進展すると、空き家解体除却後の空間の維持・管理を地元自治体や自治会による公的空間整備に全て委ねることはおのずと限界があると考えられる。一方、呉市のような自治体補助型では解体除却後の敷地の公的整備はなく、その跡地活用は全て民間に委ねるものであるが、立地が恵まれない跡地活用は停滞している。今後は人口減少社会という厳しい実情の中でどのような方法であれば、跡地利用が可能であるかを、長崎市や呉市以外の事例を情報収集しながら、空き家の解体除却事業と跡地利用の総合的な整備施策のあり方を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は平成30年3月末の調査旅費を含めるとほぼ計画通りに使用した。本年度の残額については次年度の調査で使用する予定である。
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