研究実績の概要 |
宗教施設の維持保全に関する各種法文を収集し、既往研究とあわせて分析した結果、宗教施設には登録建造物として選定する際、Grade A, B, Cというカテゴリーが導入されたことに関連して、一般の建物については Delafons(1997)Politics and PreservationにてGrade I, II, IIIの評価基準を見ることができるが、Grade A, B, Cについては記載がない。本件は、使用中の宗教施設の登録建造物同意などの適用除外と同様に、宗教施設が例外的に扱われたことの証左であり、その経緯については更なる探索が必要である。 29年度に実施予定のFriends of Friendless Churches (FFC)の設立者I, ブルマー-トーマス研究の事前調査では、彼は1953年設立のHistoric Churches Preservation Trust (HCPT)の初代事務局長も務めたことが分かった。しかし、彼はHCPTが余剰教会堂に支援をしないことで意見対立し、1957年にFFCを設立した。HCPTは現在National Churches Trust (NCT)として政府や教会から補助金を得ず、かつ教会堂は保有しない方針で活動している。これは、ブルマー-トーマスが設立に寄与した余剰教会堂基金・現Churches Conservation Trust (CCT)が政府や教会から補助金を受け、余剰教会堂を保有しているのと対照的であり。ブルマー-トーマスはポリシーの間にあって、複層的に教会堂保護の体制を築いた人物であったといえる。NCTには建築史家J.サマーソンやJ.ベッチマンら建築保存の重要人物が関わったことから、新たに考察の対象としたい。 なお、原爆ドームに関する書籍・論文は、英国のコヴェンエトリー大聖堂の廃墟が記念碑的な意味を獲得して保存されたこと、J.ラスキンの思想に言及している。原爆ドームは宗教施設ではないものの、宗教施設にも近しい精神性を獲得した事例であり、歴史的建造物の維持保全における精神・感性の面の研究として、本研究実績の一部となっている。
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