研究課題/領域番号 |
16K06681
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
頴原 澄子 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (40468814)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | I. Bulmer-Thomas / ナショナル・トラスト / セント・オルバンズ大聖堂 / 余剰教会堂基金 / 友人のいない教会堂の友の会 / 慈善団体 / 会社法 |
研究実績の概要 |
2018年9月、日本建築学会大会にて「英国における教会堂保護団体について I. ブルマー=トーマスの活動を中心に ---近現代教会建築史に関する比較論的研究(11)」を発表し、ブルマー=トーマスが設立に関わった、1. 歴史的教会堂保全トラスト、2. 余剰教会堂基金、3. 友人のいない教会堂の友の会について、それぞれの守備範囲を比較検討した。その結果、1は使用中の教会堂、2.はイングランド国教会に支援範囲を限定していたが、3. は不使用教会堂およびウェールズの教会堂も守備範囲に入れており、前2団体の活動範囲を補完する活動をしていることが明らかとなった。 2019年3月、日本建築学会関東支部研究発表会にて「セント・オルバンズ大聖堂における修復事業について--- 1879年~85年」および「セント・オルバンズ大聖堂における修復事業について--- 1885年~91年」の2本の発表を行った。これらは、昨年度に引き続き、ビルダー誌およびビルディング・ニュース誌に掲載されたセント・オルバンズに関する250以上の記事を精読したものであり、本発表ですべての記事の分析が終わり、グリムソープ卿による過修復の全過程が明らかとなった。 2019年9月日本建築学会大会にて「イギリスにおける歴史的建造物保全団体の慈善団体・会社登録状況---近現代教会建築史に関する比較論的研究(12)」を発表予定である。これは、本課題の最終局面にあたり、教会堂保全は慈善事業であるのかという問い、すなわち、建築保存の精神的側面を検討するものある。具体的には、教会堂保全3団体と、イギリス最大の民間建築および自然環境保全団体であるナショナル・トラストについて、会社・慈善団体としての登録状況を指標に比較を行った。結果、建築保存は、19世紀から20世紀にかけて、次第に、慈善事業の一つと認められるようになったことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
I. ブルマー=トーマスが設立に関わった3つの教会堂保全団体の比較から、教会堂の維持保全が、様々な思惑のもとで行われ、宗教施設から一般的な社会遺産まで、さまざまな形で維持保全されていることが分かった。また、19世紀の教会堂過修復の事例として、セント・オルバンズ大聖堂について、250以上の記事分析を行うことで、当時の大聖堂修復の実際的な側面について考察することができた。すなわち、過修復批判はあるものの、構造的安定を得ることが急務な状態では、資産家の資金援助なくては教会堂維持はできず、結果、恣意的な過修復が行われざるを得ないことがあったという状況が明らかとなった。これは、教会堂に限らず、歴史的建造物の存続の基本的条件として、現在にも共通する点である。 また、教会堂および歴史的建造物の保全の精神的側面として、ブルマー=トーマスが設立に関わった3団体とナショナル・トラストの会社/慈善団体登録状況を比較検討した。この研究はいまだ十分に結論は出ていないものの、19世紀から20世紀にかけて、教会堂やその他歴史的建造物の保全は宗教行為の一部であると同時に、一般的慈善事業と認められるようになったものと思われる。この点については、2019年度、さらなる調査を行う。 また、2019年度は、現地にて、教会堂保全状況や過修復事例の現地視察を行い、2018年度研究結果と照合を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度までで、本課題の文献調査は概ね順調に進行している。2019年度は、これまでの研究結果を現地において照合し、また、現地におけるインタビューやさらなる資料の発掘により、加筆・修正を行う。 まず、これまで共同研究として推進してきた「近現代教会建築史に関する比較論的研究」については、11月にシンポジウムを開催し、イギリス、フランス、ドイツの状況を比較分析をする予定である。登壇者は本研究の研究協力者である土居義岳、太記祐一、戸田穣、加藤耕一ほか、数名の招聘講演者と交渉中である。 また、すでに投稿済み2019年9月日本建築学会大会「イギリスにおける歴史的建造物保全団体の慈善団体・会社登録状況---近現代教会建築史に関する比較論的研究(12)」に関連して、アメニティ2000協会におけるナショナル・トラストについてのセミナーおよびシンポジウム(7月・8月開催)において、「ナショナル・トラスト」の「ナショナル」概念の変遷や、「ナショナル・トラスト」の活動範囲について他の登壇者とともに考察予定であり、このセミナーを通して、教会堂やその他歴史的建造物の社会資産としての認知の過程および、社会的存立の根拠について明らかにしてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、昨年度の調査・資料収集結果をまとめ、日本建築学会大会、日本建築学会関東支部発表会で発表を行ったが、新たな現地調査を実施するためのまとまった出張期間が、学務との関係上、確保することができず実行できなかった。そのため、来年度に現地調査を行う。現地調査は9月に10日間程度を予定しており、余剰教会堂基金(現チャーチズ・コンサベーション・トラスト)や「友人のいない教会堂の友の会」による余剰教会堂の再利用の状況、セント・オルバンズ大聖堂と同様に19世紀過修復された教会堂(とくにJ.ワイヤットによる修復の行われた教会堂)の現状調査、およびアーカイブズ、図書館等での資料収集を行う。 また、11月に研究成果をまとめるための、シンポジウムを共同研究である「近現代教会建築史に関する比較論的研究」のメンバーとともに開催する。登壇者は土居義岳、太記祐一、戸田穣、加藤耕一他、数名の招聘講演者と交渉中であり、交通費・宿泊費および謝金の支払いを予定している。日本建築学会大会(9月)での発表登録および旅費(金沢)、アメニティ2000協会シンポジウム旅費(神戸)も支出予定である。また、関連図書の購入、現地調査におけるコピー代、調査に必要なカメラ、パソコン等の機器も可能であれば支出する予定である。
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