研究課題/領域番号 |
16K06683
|
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大野 敏 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (20311665)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 伝統的木造建造物 / 維持修理 / 野外博物館 / 保存修復 / ヘリテイジマネージャー / 島村蚕種製造建築 / 応急修理 |
研究実績の概要 |
①横須賀市万代会館(昭和初期建築の未指定茅葺別荘)の保存修理に関する基本的方向性の提言を中心になってまとめた。保存が検討中の案家に関しては、①建物価値をどのように周知すべきか?②文化財と一般建築の維持修理の差異や留意すべき事項への認識が相当低い現状を知り、基礎の基礎的な情報整理の必要を実感仕立てんが大きな収穫であった。また、維持修理の手法の違いと費用の違いに対する関心の高さがきわめて高い点が注目される。 ②ヘリテージマネージャ-講習会における実践活動は、滋賀県、和歌山県にて遂行した。和歌山県では歴史的建造物の震災被害に対する調査と普及修理煮対する考え方を、具体的事例を整理して解説した。滋賀県では上記の事例解説のほか、歴史的建築の実測調査手法・所見作成手法を解説し、実際の遺溝をもとに実測調査と破損状況調査の演習を指導し、修理設計の考え方を解説した。以上の実践により、用意した資料の効果を検証した。また、全国社寺屋根保存会の技術者講習会において茅葺き技法や屋根修理設計の要点を解説したが、全国的な茅葺き屋根の維持保存状況に関する解説が欲しいとの要望があったので、留意事項に加えた。 ③群馬県伊勢崎市島村の大型蚕種製造民家群の調査を継続する中で、保存に限界を感じている蚕室1件について、日本建築学会からの保存要望書提出に尽力した。あわせて当該蚕室に対する応急修理の設計を企画し実践した(屋根雨漏り対策、床腐朽箇所補修、雨戸修理、軸部筋交い補強など)。 ④川崎市指定文化財の修理指導を通じて、所有者・施工者に文化財維持修理の意義と基本的考えを啓蒙することの必要性を強く感じ、その要点を記録に留めた。 ⑤宮城県村田町の重伝建地区内における歴史的建造物の震災復旧修理における耐震性強化の考え方について柱の補強、基礎の強化、免震ダンパー活用の視点から実践した内容を整理して発表した
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
未指定文化財の保存継承手法の具体的提案と基本設計に関して、横須賀市万代会館の事例を継続して、進捗中である。現在までにボランティア修理の可能性についての知見をまとめ、保存継承手法の基本指針について従来の研究で得た基礎データを整理した。また、群馬県島村の蚕種製造民家群における無指定物件保存継承に関し、保存要望と応急修理提案を組み合わせた存続手法を試み、実際の応急修理も試行し、今後も継続予定である。地方指定文化財の修復設計指針は、小原宿本陣の修復計画が進展しないため具体的活動を休止しているが、同じ相模原市内の旧青柳寺庫裏の茅葺き葺替工事における仕様を確認して、屋根修理設計に関する基礎資料を整理した。また、川崎市指定文化財の修理指導経験から、地方指定文化財における保存修理時における文化財的価値の存続に対する基本理念啓蒙の必要性を強く感じ、その経験を寺誌に発表した。野外博物館における修理設計に関しては、川崎市立日本民家園の古民家における破損状況とその対応に関して経過観察による基礎資料収集を行い、耐震性向上に関する事例(免震化の効果と課題、経過的措置における効果と課題)に関して知見を深めた。 重文民家所有者の会における課題収集は、広島における総会での情報交換と、東日本における集会での講演を通して、所有者との相談ネットワーク構築を模索中である。 重伝建地区における歴史的建造物修理設計については、宮城県における震災復旧修理の事例をまとめて発表した。また弘前市における伝建地区の再評価に関して関わる機会を得て、日常の維持管理を通した所有者と行政の意志疎通の可能性について考える機会を得た。上記の実践的研究内容を適宜ヘリテイジマネージャー講習会および全国社寺屋根保存会技術者講習会におけるテキストに還元しており、全体として当初計画は若干内容に変更を加えながら、概ね計画通りに進捗中である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の活動の核は、無指定の歴史的建造物の保存継承策に関していえば、横須賀市万代会館の保存継承策提言に基づく具体的な耐震補強と保存活用に向けた修復についての設計を具体化すること。同じく、群馬県島村の大型蚕種製造民家群における無指定蚕室の保存活用手法を見いだす活動(地区の将来像提案を含めた蚕室の活かし方、そのための補修方法提案)の継続とその情報・記録整理がある。 一方、茅葺きの技術的な俯瞰と、修理手法に関する具体的な基本指針作成の必要性を感じるが、茅葺き自体が建築基準法で認めていないため、文化財と非文化財における対応の違い、補助金受給有無による修理内容選択の必要性、すなわち工事費を抑えた効果的な茅葺き維持手法が可能なのかの検証も必要である。 工事費と文化財修理における真正性維持の問題は、登録文化財と重伝建地区において最も選択の幅が広いため、手法の整理と併せて対処手法の可能性整理にも留意していく必要を感じている。
|