研究課題/領域番号 |
16K06683
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大野 敏 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (20311665)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 横須賀市立万代会館 / 茅葺き別荘 / 境島村 / 津久井郡の茅葺き古民家 / 重要文化財伊佐家住宅 |
研究実績の概要 |
横須賀市万代会館の保存活用に関して、推進協議会の議論を踏まえて、「横須賀市立万代会館 保存活用に向けた提言 2018」のとりまとめを行った。この提言において、万代会館を横須賀市の文化財として指定して、「昭和初期の茅葺き建築群としての別荘建築」と「希有の実業家・万代順四郎トミ夫妻のすまい」と言う2つの価値を基本として保存継承することを主張した.そして、現在万代会館の存続に関して懸案事項となっている、建物維持補修の課題、耐震改修における具体的指針の課題、改修後の建物活用手法の再検討の課題、歴史的経緯を踏まえた庭園整備のあり方についての検討、などについて愚弟的指針を示した。この提言を2019年8月に市長に提出し、横須賀市としてもこの内容を参照して現在建築構造に関する調査と文化財指定に向けた検討を行っている。 横浜市保土ヶ谷区に所在する古民家(津久井郡に建築された19世紀中期頃の建築を1960年に現在地に移築復原した)の茅葺き維持について、ボランティア(指導者1名)による修理試行を1年間実施した。毎月1回、平均参加者6名ほどの規模で、約260平方mほどの茅葺き屋根の正面部分60平方メートルほどが差し茅修理で整えられた。2019年度も継続の予定。 群馬県伊勢崎市境島村と埼玉県本庄市にまたがって所在する蚕室建築(世界遺産の田島弥平旧宅に近接する建物で、景観上きわめて重要視している)が存続の危機にあるため、2017年度に筋違い補強を応急的に行ったが、今年度も引き続き床の補強と建具の清掃を行うと共に、大学院生と共にこの建築をどのように地域内で活かしていけるのかを検討し、地元で発表した。 全国に重要文化財民家の集いに参加して、ホスト家の伊佐家住宅(京都府)の茅葺き屋根の損傷原因についてアドバイスを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
具体的名対象をもとに、保存修復に対する基礎概念を系統的に整理する活動は、おおむね順調に進んでいる。 特に横須賀市立万代会館の保存が具体的に成功し、市民レベルでその存続に関して提言できる関係を横須賀市との間聞き付くことが出来たことは大きい。 また、境島村の養蚕建築群に関しては、少しずつであるが成果が出始めているが、研究年度内に大きな成果に結びつくかは微妙な状況である。すなわち基本的な地ならしの段階にとどまるかもしれないが、それでも当初の状況から見れば大きな前進と考える。 民家園をはじめとする文化財建造物耐震補強の問題は、実例を目の当たりにすると、従来の文化財保存修理とは別の価値判断指標が必要で、さらに補強に対する工事費の増大が大きな課題と感じる。その点で筆者らが報告した宮城県村田町における重伝建地区内の耐震補強の考え方は有効である可能性が高い。この視点での作業推進が必要であろう。
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今後の研究の推進方策 |
万代会館に関しては、2019年度に修復に関する基本設計を支援する見込み。 境島村の蚕室に関しては、島村地区の蚕種製造建築に対して、その価値を内外に周知するために、登録有形文化財への登録を所有者や地区の人たちと協力して推進していくつもり、あわせて今後の建物維持管理に関する基本方針をアドバイスするつもり。 重文民家の集いに関しては、維持管理に関する相談体制について協議をすすめる予定。 横浜の茅葺き民家に関しては、今までの維持管理に関する記録をまとめてみたい。 文化財民家を中心とする構造補強と文化財的かつのバランスの問題についても、補強実態と経費に注目して整理してみたい。
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