最終年度である2019年度は、未踏査であった国選定重要文化的景観または重要伝統的建造物群保存地区として、埼玉県川越市、群馬県桐生市、群馬県板倉町を訪問し、文化的景観の価値付け、保存計画とその実践について、現地調査を行った。川越市では全国町並みゼミ川越大会に参加し、文化的景観の考え方を町並み保存に適用する際の考え方として「インテグリティ」と「変化のメカニズム」に注目すべきことを論じるスピーチを行い、町並み保存関係者とのディスカッションを行った。桐生市では、重伝建選定後の保存活用に向け、伝統的織物業が造り出す敷地利用形態と建築形態の特徴についての読み解きを行い、行政担当者との協議を行った。板倉町では水郷地帯の文化的景観について詳しい説明を受け、文化的景観を生かした地域づくりの方法につき意見交換を行った。 また、関連する調査研究として、今年度就任した文化庁文化財保護審議会第三専門調査会委員としての活動の一環として、滋賀県内の重要文化的景観選定地である高島市の海津・大崎、針江・霜降、高島の文化的景観にも訪問し、住民及び行政より文化的景観の価値と保存計画の実践について詳しい聞き取りを行った。加えて文化的景観に関わる受託研究として、高知県四万十市、京都府和束町の文化的景観調査、京都府による宇治茶の文化的景観調査を実施している。 本年を含む4年間の調査研究により、文化的景観としての都市・町並み・集落の保存活用のあり方について、以下の問題点の抽出と今後の展望を得た。1.都市・町並み・集落の価値評価は、文化的景観のキーワードである「インテグリティ」の観点の導入により、活用に繋がる読み解きをより深めることができる。2.既往の町並みは保存と活用を切り離した上で併置されてきたが、どんな町並みも変化するものであり、「変化のメカニズム」に注目することで、保存活用の諸問題を解決するヒントを得ることができる。
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