研究課題/領域番号 |
16K06688
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
崎山 俊雄 東北学院大学, 工学部, 准教授 (50381330)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 明治時代 / 土木技術者 / 建築技術者 / 人材移動 / キャリア形成 / 技術伝播 |
研究実績の概要 |
本研究は、土木・建築技術者の国内外移動と職能形成過程に着目して、明治期における地方の近代建築や近代都市を成した人的枠組みを解明することを目的としている。特に平成28年度は、①明治前半期の各府県における技術系部門の構成員と周辺人物を網羅的に抽出すること、および②各人の経歴分析を行って、明治前半期における技術者の移動実態を仮説的に展望すること、を目標として研究を実施した。以下では顕著な結果が得られた宮城県を事例として、結果の概要を述べる。 ①組織の上で府県庁に技術者(技師・技手)が確認されるのは明治19年「地方官官制」以後であった。ただ実際には、この技術官制度が確立されるかなり前から、後に技術官に成長していく人物が徐々に着任し始めていたことを確認した。 ②最も早くに着任したのは、測量系技術者であった。彼は大蔵省土木寮から内務省測量司を経て来県した経歴を持ち、特に内務省在勤時には、岩手県内で測量事業に従事していたことを確認できた。一方、県内の人材も早くから積極的に登用されていた。特に中央省庁での実務経験がなくても早くから任用され、後に技手に昇任した人物が複数いた点は、地方の潜在力が決して小さくないことを示唆する結果と考えられた。 ③一方、特に初期には人的な繋がりで外部から来県したと見られる人物も多かった。知事や課長の人脈はとりわけ重要と見られた。例えば宮城県における初期の土木系技術者は内務省土木局、建築系技術者は工部省灯台局との繋がりが強かった。 ④技術教育あるいは技術移転の観点からも、興味深い結果を得た。すなわち宮城県では早くから「技術生」という肩書きの人物が多数おり、彼らの多くは県内出身者であった。このことは、初期の宮城県で、県外出身者により教育的な試みがなされていたことを示唆しており、地方における初期の土木・建築技術について考える上で重要な事実と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①研究資料の調査過程において、当初の予想を上回る史料を発見することができた。特に建築技術者のみならず、土木技術者をも含む総合的な枠組みで検討できる史料を見出したことにより、研究全体の枠組みを拡大することが可能となった。 ②上記の結果も反映して、史料の収集は必ずしも十分とは言えない状況だが、当初想定していた重要史料については、概ね計画通りに収集することができている。また抽出した技術者のデータベースは500名程度の規模となっており、この点についても概ね順調と考えている。 ③現時点で収集済みの史料により、明治前半期における技術者の動向は、概ね展望できる段階に達している。 ④次年度以降に収集すべき史料についても一定にリストアップできており、次年度の活動にスムーズに着手することができる状況に到達している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を踏まえ、今後は①未収集データの継続的収集、②特に北陸・関東・西日本地区を対象とした収集活動の強化、③各技術者が関与した物件(構造物または建築物)に関する史料(公文書、写真、絵図面等、なお一部は既にリストアプ済みである。)の収集、に重点を置く。 ①については特に新潟県、長野県、京都府で史料群が充実しているので継続的な収集を行う。また②については更に史料の存在を確認できた神奈川県、山口県を視野に入れる。これらが、効果的な比較考察に資する最低限度の地理的拡がりと考えている。なお③については、関連資料の豊富な国立国会図書館、建築学会、土木学会の各所蔵資料の収集が最も効率的と考えられるので、優先的な調査を検討している。なお関係教育機関に所蔵される古写真等も一定に存在することが確認できているが、これらについては予備調査が不十分であるため、引き続きリストアップを続ける計画である。こうした作業が後の効果的な作業に繋がることになろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
①研究代表者の勤務地近傍(東北地方)において当初の想定を越える質および量の史料を発見することができた。更に②重点調査地域に想定していた京都府において資料館の移転に伴う閉館期間が生じた。以上の理由から、北陸および関東以南で予定していた調査の一部を東北地方での調査に振り替えた。 また、今年度の調査先機関の多くが歴史資料の自写を許可していたため、スキャンニング作業や整理作業を当初の想定より削減することに繋がった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度において先送りした北陸および関東以南での調査を次年度において実施する計画としているため、今年度に未支出の分は、第一に次年度の旅費に組み込んで使用する見込みである。また第二に、関連書籍等が当初の想定を越えて発見できたため、これらの古書店からの購入費用、あるいは図書館での複写費用として、次年度において支出する計画である。
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