本研究は、特に第二次世界大戦前に公的機関(主に農林省、農商務省)が示した標準的な建築仕様が農業関係の施設にどのような影響を与えたのかを明らかにすることで、標準仕様に則って建てられた類似施設を文化財とする上で、どの部分を見れば差別化や特徴を見出すことができるのかということ目的として取り組んできた。特徴を浮き立たせる上で、類似施設の場合は、一見それを把握するのが難しい。近隣のものと比較検討することで一定の違いは出せるが、ビルディングタイプが同じというだけでの比較にはあまり意味があるとはいえない。また、それは相互比較による違いであって、ある一つの基準、或いは総体に対して、どのような特徴を持つかということにはならない。その意味で、本研究で実施した、農業倉庫、稚蚕施設、製茶工場は、標準的な仕様をどのようにして踏襲するか、標準仕様に記載のない部分はどのように対応するのか、地域性はどの部分に表れやすいのかといった点を示すことができた。このことは、文化財としての一定の評価を考えたときには、有用な視点であると考えている。柑橘貯蔵庫では、地域には群として現存し、かつて地域で仕様を研究していたとされながらもその詳細は不明であった。そのため、現存物からある程度の共通仕様を把握する作業を行い、それによって一定の基準を見出す作業も実施した。農林省茶業試験場の審査室では、建築技術者でない人物が設計を主体的に行い、敷地内の他施設の図面を真似て、図面を描いていた可能性を指摘し、このことで試験研究機関の小規模施設は、標準的な仕様に加えて、構法や部材寸法等については敷地内の他施設との関係を見ることで違った視点での特徴を見出せそうだという可能性を示唆することができた。こうした点から、研究としては一定の成果を得られたと考えている。
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