2019年度は、主に以下の調査・分析を行い、研究を総括した。 (1)兵庫県の小束野耕地整理組合(1921~30年)・西光寺野耕地整理組合(1932~36年)の移住奨励関係書類について、前年に引き続き移住奨励の申請・補助状況と移住家屋の平面の特徴を検討した。 (2)宮城県営広淵沼開墾地・短台耕地整理組合について、前年度の現地調査・史料収集を元に、移住奨励実績および移住家屋の平面等を検討した。両地区の移住家屋は、小倉強が同潤会発行『東北地方郷土住宅誌』で紹介しており、広淵沼の主屋2案は規模が小さく耐熱・耐寒等の不備が指摘されるが、短台は主屋に加え別棟の作業場を持つなど規模・設備が充実し、改善が評価された。既に報告した山形県・岩手県の事例と合わせると、東北地方の大規模開墾事業における移住家屋は、大部分が県の設計・指導により統一した平面・仕様で建設されたが、移住奨励の交付率は年代が下るにつれて減少したことが判明した。 (3)富山県・山形県・岩手県・秋田県の修錬農場に建設された「模範農家」等と呼ばれるモデル住宅について、その実像と用法、農村住宅改善における意義を考察した。秋田県修錬農場については、工学院大学図書館所蔵図面(今和次郎コレクション)の追加調査を実施した。これらに共通する特徴として、①厩舎の分離、ガラス窓・欄間の採用等による保健・衛生面の改善を重視、②1施設に複数案を建設し、生活像や地域性に即した住宅像を提示、③寄宿舎として修錬生が居住、④一般公開の実施、⑤開墾事業との連動の5点を明らかにした。
|