本研究の目的は、中近世の神社を対象として、神社建築と境内を含む山林が一体となって形成してきた歴史的環境としての神社の維持保全について建築史学的に解明することであった。とくに神社建築の建立と修復の履歴を取り上げて、維持保全の実態を解明し、神社境内の整備や、周辺環境を取り巻く山林とがどのように相互に関連してきたかを探ることによって、総体としての神社におけるライフサイクルの特質を明らかにすることを目指してきた。 上記に基づき、神体山や禁足地をもつ神社を対象として調査をすすめるなか、とくに奈良県大神神社と三輪山にみる樹木や山林に対する視点の変化、長野県諏訪大社と神体山では境内の変化と後背林の植生の変化には信仰対象の変化に基づく相関が考えられることを指摘してきた。さらに稲荷山を神奈備とする伏見稲荷大社をはじめ、社殿の造営や修理の履歴をふまえてみれば山麓の境内整備の背景には山自体よりも山麓への信仰の移り変わりを見出すことができた。同時に、これらの神社の樹木景観では近世以前の針葉樹林を主体とした描写や記述とは反して近代以降に混生林や常緑広葉樹主体の景観が確認された。これは和歌山県長保寺のように寺院の鎮守の後背林でも確認できた。一方で、全国の中世神社本殿を中心に建築形態と細部装飾に関するデータを収集整理し、とくに中近世の変遷について修理工事報告書等から詳細に分析するなかで、本殿位置を後世に移築し後退させた事例が複数あり、本殿背面の細部装飾(蟇股や木鼻など)にみる建築意匠の在り方や工匠の特質はこうした変化をとらえたうえで理解し得ることが指摘できる。くわえて、移築された旧社殿のなかには、河川など水運による建築流通と立地との関係も見出せた。以上に関連して、今年度は中近世の神社との比較対象として近代の明治神宮造営計画にみる建築・造園分野と相関や、中世寺社の技法の考察について論文発表を行った。
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