研究課題/領域番号 |
16K06698
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研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
山田 由香里 長崎総合科学大学, 工学部, 教授 (60454948)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | パリ外国宣教会 / 旧出津救助院 / マルコ・マリ・ド・ロ神父 / 授産道具 / 明治初期の仏製バッタン高機(フライシャットル) / Joshua Holmes Vogel / メソジスト会 / 長崎の教会堂建設 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、長崎市外海地区の旧出津救助院所蔵の仏人宣教師ド・ロ神父(1840~1914)関連授産道具の調査研究を主に行った。同院は、1883年建設の授産施設で、2003年に建物が国重要文化財に、07~12年に修理工事が行われた。その際、授産場内の道具が別置され、そのままになっていた。 調査は、道具1500点について実測・写真撮影・所見を作成し、整理と復原にも努めた。内訳は、(1)織物関係192点(糸紡ぎ、織機、型板等)、(2)食品製造関係53点(そうめん、醤油、調理器具等)(3)農具54点、(4)宗教関係85点、(5)その他1040点からなる。 道具の代表的なものを挙げる。①糸車とバッタン高機は、フランスから救助院設立初期に取寄せたもの。トヨタ産業技術記念館によると、国内におけるバッタン高機の早い例は1873年に京都西陣の伝習生が仏国リヨンから持ち帰ったもので、以後その技術が普及して織機の生産性が高まった。救助院の織機は、同時期に外海に直接、道具と技術が伝来したことを示し、貴重である。②洋服型板は木製で、洋式の作業着、ベストなど。長崎居留地の学校衣類も含まれる。③宗教関係道具は、燭台、ろうそくを作る道具、ロザリオ、祭服など。④他に、フランス製笛や、長崎と外海の往来船の帆があった。従来から外海で使われてきた道具もある。道具の年代は、1880年代から1940年代である。 当初計画していなかったが、長崎・九州のミッションスクールや教会堂を多く手掛けた建築家J.H.Vogel(1889-1970)の設計資料がアメリカのオハイオ州立大学とワシントン大学にあることが判明し、現地調査をした。約500点の図面・写真資料は初出資料が多く、貴重である。パリ外国宣教会の次に長崎に伝来したメソジスト会の宗教施設の建築活動を知れる。両者の比較検討によって、パリ外国宣教会の特色がより鮮明になる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は、長崎市外海地区の旧出津救助院所蔵の仏人宣教師ド・ロ神父関連授産道具の調査研究を行うことが当初の計画だった。調査点数は1000点と見込んでいたが、実際に調査すると1500点に上った。だが、調査補助者の協力を得て、道具1500点全てについて実測・写真撮影・所見が終了したので、当初の計画以上に進展している。 また、当初は計画していなかったメソジスト会の日本・アジア圏のミッションスクールや教会堂を手掛けた建築家J.H.Vogelの資料がアメリカのオハイオ州立大学とワシントン大学にあることが判明し、これらの現地調査も実施できた。大きな成果であった。 いずれも、旧出津救助院の調査許可、またアメリカの資料検索について御教示を関係研究者から得たことが大きい。協力に記して感謝したい。
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今後の研究の推進方策 |
[平成29年度の予定]事前の計画では、平成29年度は、平成28年度に調査した道具の整理と復原を行うことにしていた。これを予定通り実施する。道具によっては、部品がバラバラになり、使い方が分からなくなっているものもあったが、トヨタ産業技術記念館所蔵織機などの類例から手がかりを得ている。 パリ外国宣教会の宣教師で、ド・ロ神父と同様に道具をもたらした神父について事跡と道具を類例調査する。具体的には、オズーフ神父(東京、1829-1906)、クーザン神父(長崎、1842-1911)、ガルニエ神父(天草、1860-1941)などの調査を予定する。 平成28年度に現地調査ができた建築家J.H.Vogelの図面・写真資料についても検討分析を進める。
[平成30年度の予定]平成28・29年度に明らかにしたことを総合的に検討する。パリ外国宣教会のわが国における教会堂建設と授産事業を実証的に再検討し、歴史的価値を再評価する。成果は、旧出津救助院の展示に反映させる。成果は、目録冊子にまとめ、パリ外国宣教会のフランス本部などにも送付し、普及に努める。
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