研究実績は、以下の四点からなる。 第一に、鉄川与助と同時期に長崎の教会堂建設を手掛けた大工川原家に関する展覧会の開催である。ナガサキ・ピースミュージアムで5/21~6/16に開催したところ、500名越の来場者を得た。前年の研究成果を広く普及することができた。来場した関係者の聞取りから、稲佐山教会堂、馬渡島教会堂(旧紐差教会堂)も川原家が手掛けた。 第二に、川原家は鉄川与助より早い時期に教会堂建設に関わり、建築(出津・大野・馬渡島教会堂など)や資料(黒崎教会堂設計図面[川原家御子孫所蔵]、佐賀県立公文書館所蔵資料)を通じて、明治初期の教会堂建設におけるフランス人神父との関わりの一端を明らかにした。 第三に、2016年度に資料調査をした建築家J.H.ヴォーゲル(Vogel、1889-1970)について、『信仰と建築の冒険、ヴォーリズと共鳴者たちの軌跡』(吉田与志也氏、サンライズ出版、2019)が出版されたことにより、ヴォーゲルの足跡が明らかになった。近江八幡で著者の吉田氏に聞取りし、出典資料のご教示を得た。2016年度に調査した資料の分析を深められた。 第四に、『「五足の靴」をゆく、明治の修学旅行』(平凡社、2018)の著者森まゆみ氏による講演会を長崎で開催(2/15)し、1907年に与謝野鉄幹らが長崎・天草のキリシタンの地を目指した様子を講演頂いた。森氏によると、当時の文壇は森鴎外翻訳のゲーテの即興詩人に文学者が影響を受け、新しい南蛮とカトリック文化の作品を発表した。長崎・天草におけるフランス人神父による教会堂建設は、地元の大工を触発しただけでなく、明治・大正の文学者にも影響を与えた。 当初3年を予定していた本研究は、諸事情から5年を費やしたが、その間、2018年に「長崎・天草の潜伏キリシタン関連遺産」の世界遺産登録が実り、本研究も道具や技術に留まらない幅の広い成果を得ることができた。
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