研究課題/領域番号 |
16K06701
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
藤井 裕之 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (30466304)
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研究分担者 |
大山 幹成 東北大学, 学術資源研究公開センター, 助教 (00361064)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 年輪パターン / 近代和風 / 木造建築 / 現代 / 近代 / 良材 |
研究実績の概要 |
後述する出来事により、各地における年輪データの収集調査は断念したが、引き続き新潟県(中越・下越)と東北地方(福島県福島・岩手県盛岡周辺)において、地元あるいは近隣産材のデータ収集を目指し、実地調査対象の探索作業を継続するとともに、既存データの再検討を進めた。 これら新潟・東北方面における探索状況を総括すると、本研究課題の目的にかなった良材、とくに年輪幅の細かい柾目の意匠を凝らした建物は、期待したほど多くなく、本課題に至る着想を得た西日本、とりわけ四国~中部の建物で頻繁に見かけるような細かい幅は、あまり普遍的でない。これは柾目の意匠自体がないということではなく、例えば新潟県J市のS邸2階の天井に使われた柾目板は、竣工当時、地元新聞に「幅尺五寸の杉柾板!」「千年寿命の一本杉!」「ゑにしあつてか(中略)此処の座敷の天井飾る」「委細合点至極恐れ入つて候」などと書き立てられたものであるが、年輪データとするには、必要な年輪数を満たしてはいるが、少々物足りない。つまり、当時の認識と実物の材質に大きな開きがある。また、新潟に多い豪農層の住宅がその代表例になると思われるが、この方面の木の使い方として、良材の質よりも、遠くの大都市で買い付けて貨車で運んだとか、遠隔地産の巨材や長大な一本物をわざわざ運んで来た、などといったエピソードにより重きを置いて、建物の威容や施主の財力が表現されることが比較的顕著なのではないだろうか。そうすると、本研究課題に見合ったデータの収集を、この地方の建築を題材におこなう試みは、やや望み薄の結果になるかもしれない。しかし、とくに新潟は年輪データが不足している地域でもあり、もう少し様子を見たい。なおこの方面の、江戸時代後期~幕末頃の建築とされる農村部の民家で、年輪幅の詰まった柾目板を多用するものが意外とある。対象時期からは外れるが、非常に興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
既報の通り、2017年度は計画の半分程度の進捗実績にとどまったことから、2018年度は早々から探索に立ち上がり、その成果を踏まえて実地における年輪データの収集に順次乗り出す計画としていた。しかしその矢先の7月、研究代表者が所属する研究室の研究員について刑事事件が発覚した。この捜査では、年輪データの収集と解析に常用していた研究室備え付けの機器が突然押収されて使えなくなるなど、本研究も少なからず影響を受けた。また、捜査の内容について十分な判断材料を欠く一方、その長期化も次第に見込まれる状況になり、先々の情勢が見通せなくなったことから、当面の間、対外交渉が必要な活動を自粛せざるを得なくなった。 以上により、2018年度の研究活動は探索と既存データの再検討に終わり、新しい年輪データの収集には至らなかった。犯罪捜査にかかわることでありやむを得ないこととはいえ、本研究課題は年輪データ自体の収集に重点を置いており、それを停止した結果、進捗は大きく遅れた状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、次の2019年度が最終年度となる。これまでの探索活動により、年輪データの収集対象とすべき物件がすでにいくつか挙がっており、2017年度実績報告において述べた今後の推進方策を引き続き保持し、対象候補の実地調査を推進する。2019年度前半は、2018年度に積み残しとなった新潟・東北方面に、後半は、本研究課題当初に対象を選定していた西日本方面に調査の手を差し向ける。ただし、これら実地調査で収集されるデータの計測と処理は、残り期間と必要な作業時間からみて、どうしても2019年度内に終わらせることができない。最終年度は、実地調査と計測・処理の立ち上げに専念し、一連の研究活動による最終的な成果は、やむを得ず研究期間が終了した後の段階に、順次まとめていく段取りとしたい。 2018年度は、先述した理由により、各地における年輪データの収集調査を断念したが、その欠を補うため、2019年度夏以降は、本研究課題のための活動時間を例年になく多く確保できる見込みである。また2017年度に生じていた代表者の生業上の諸問題は、2018年度に続き、2019年度にあっても再現しない見通しである。2019年度は実地のデータ収集を主とし、探索は補助的におこなうこととし、東日本の物件に関しては、探索と現地調査を代表者と分担者が協同しておこなう態勢とし、より多くのデータの蓄積につなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由 「現在までの進捗状況」において述べた理由により、各地における年輪データの収集調査をとりやめ、次年度に実施することにした。そのため、代表者が2018年度に使用する計画としていた金額のうち、探索2件に要した旅費、これまでに取得した各種電子データを安全に保管するためのハードディスク一式、および調査用照明器具等の物品購入費を除いた残余の金額を次年度に送り、使用することにしたものである。 使用計画 繰り越し分は、基本的に新潟・東北方面の調査旅費、およびそれに関係する費用に充てる。対象物件の探索は5月末~6月初め頃以降、年輪データの収集調査は7月以降、順次使用し、おおむね秋頃までに全額費消する計画である。
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