最終年度の2019年度は、前半に調査対象物件の詰めの探索、後半に7件の年輪データの収集調査を実施し、2月末にすべて完了させた。 対象物件の探索は、昨年度までの収集・計測済みデータの中間的な検討結果を踏まえ、各地で広くおこなうのではなく地域を絞るよう方針を修正した。これにより西日本での探索は取りやめ、引き続き新潟県と、新たに福島県会津地方で探索をおこなった。 年輪データの収集調査は、これまでの探索成果に基づき、地理的環境や伝承、交通に関する歴史的事実(とくに鉄道との関係)により用材の産地が比較的明確と考えられた7件を選び、主に天井板を対象に実施した。西日本では愛媛県新居浜市・旧広瀬邸でスギとツガについて、また新潟県とその周辺では、上越市・旧師団長官舎、新潟市南区・笹川邸、同江南区・北方文化博物館、新発田市・市島邸、阿賀野市・孝順寺、福島県会津若松市・末廣酒造嘉永蔵、以上6件で主にスギ材について、各々年輪計測用の画像を撮影した。これにより、本研究に必要な素材がひととおり出揃ったことになる。今後は向こう数年間をかけて計測を進め、データにどの程度具体的に地域名を紐付けできるか検討していく。 一方、2017年度収集分の山形県鶴岡市・風間家旧別邸無量光苑釈迦堂の計測結果がまとまり、宮城県内2箇所の現生データにより、天井板55点中53点から作成した220年の平均値パターンの年代が1646~1865年と求められた。本研究が目指した、未知の林業地の把握と、より古くへの現生系データの遡及をともに実現した、大きな成果といえる。ただし、材の産地に関する伝承や歴史的事実と、年輪に基づく推論には齟齬も見られる。これには現段階での新潟・山形・福島付近におけるデータの集積不足が影響している可能性があり、今年度収集データの計測結果が出揃うのを待って、既存の手持ちデータも含めて総合的に考察していく予定である。
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