研究課題/領域番号 |
16K06702
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐久間 昭正 東北大学, 工学研究科, 教授 (30361124)
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研究分担者 |
栂 裕太 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 物質・材料研究機構, 博士研究員 (70641231)
三浦 大介 東北大学, 工学研究科, 助教 (90708455)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ギルバート緩和 / スピン軌道相互作用 / スピン流 / スピンポンピング / スピントルク |
研究実績の概要 |
本研究では、これまでの磁気緩和理論を磁化の不均一性や動的観点から再検討し、微視的立場からの統一的理解と計算手法の再構築を目指す。そのため、平成29年度は多層膜構造や磁化の非一様運動の影響を取り込んだギルバート緩和定数αの一般式の構築を試みた。モデルは有限の層数から成る強磁性(FM)層と非磁性(NM)層の籍層構造を想定し、ハミルトニアンとしてFM層、NM層ともに電子のホッピング項、FM層のみに交換分裂項とスピン軌道相互作用(SOI)を考慮した。ただし、ここでは簡単のためSOIとしてRashba型を仮定した。森公式に基づくスピン緩和の一般式から、αはSOIによるスピントルクの相関関数とスピン流の相関関数の和からなることを示した。前者はKamberskyらによって示されたバルクにおけるトルク相関関数に対応しているのに対し、後者は積層構造や不均一系においてのみ有限値を与える項であることを明らかにした。実際、数値計算の結果、後者によるαはNM層の層厚に対して0から単調に立ち上がり、徐々に一定値に近づく傾向を示した。これは、FM層内でのスピンの時間変化(動力学)により発生したスピン流がNM層内に流出することで生じる磁気緩和機構と解釈することができ、スピンポンピング機構の微視的記述として理解することができる。今回の研究により、バルク起源とスピンポンピング起源によるギルバート緩和を一つのモデルと計算手法から導くことができ、それぞれの物理的機構を統一的立場から明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究内容はH28年度に予定された計画の範囲内にあるが、H28年度の研究の過程で、バルクや籍層膜のαについての統一的理解につながるアイディアを得て本成果に繋がった。本研究により、積層膜におけるスピンポンピング項が微視的にはスピン流の相関関数で記述できることが示された。 H29年度に計画していた帯磁率を用いた磁気緩和の統一的評価についてはH30年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は、森公式をより一般化することで有限温度におけるαの一般的記述を試みる。従来、有限温度における磁気緩和に関する理論としてはNMRのKorringa則が有名であるが、これがギルバート緩和定数とどのような関係にあるかについて明らかにした研究はない。我々は、キュリー温度(TC)を挟む全温度領域での磁気緩和、局在モーメント系と遍歴電子系の違いなどについて、森公式による帯磁率を用いた統一的立場から磁気緩和の微視的記述を試みる予定である(佐久間、三浦助教、栂研究員、H30のMC2、DC1学生)。
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