研究課題/領域番号 |
16K06703
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
尾中 晋 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (40194576)
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研究分担者 |
宮嶋 陽司 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (80506254) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 結晶方位 / 材料組織 / 回転行列 / 対数角 / 塑性変形 / 転位組織 |
研究実績の概要 |
転位の配列により亜粒界が形成されると,結晶粒内の方位は場所により変化する.よって,粒内方位変化の高分解能測定を行えば,転位組織の状態を評価できる可能性がある.しかし,粒内の結晶方位の変化を結晶学的に成分に分解し,材料組織と定量的に結びつけるための明快な解析方法は過去には示されていない.研究代表者は,方位変化を示す回転行列の対数を取ることで得られる三つの独立な実数成分が,材料中の結晶方位を評価するための特性角となることに気付いた.行列の対数は,代数における群論についての考察から得られた概念である.本研究では,この特性角(対数角)に実用性があり,結晶性材料の組織評価に有効であることを示す. 平成29年度における理論的研究としては,二つの回転行列PとQと,それらの対数角ベクトル,それぞれ,pとqが与えられているとき,回転行列の積R=PQの対数角ベクトル r が,pとqを使ってどのように表現できるかを調べた.一般に r はpとqの級数として表現できる.PとQの回転角があまり大きくない場合には,微小項を考える近似解によって r をpとqの簡単な多項式として示すことができることがわかった. また,平成29年度における実験的研究として,純鉄多結晶を塑性変形した際に転位の生成と配列で生じる結晶粒内の方位分裂に注目し,対数角を使った実験結果の整理と解析を行った.対数角を使うことにより,塑性変形後の結晶粒内における結晶方位の位置による変化を系統的に示すことが可能になり,塑性変形時にすべり変形に関与した転位と方位変化のあいだの関係を明確に示すことができた.得られた成果は論文として公表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論的研究と実験的研究の両方について成果が得られ,論文の公表ができたため.
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今後の研究の推進方策 |
塑性変形後の結晶方位を高分解能高精度に測定し,得られた結果を対数角の考え方で解析することで転位のすべり運動による塑性変形の進展,塑性変形にともなう結晶方位の変化を総合的に考察する.結晶方位情報を使って転位反応と転位組織形成を考察し,塑性変形にともなう材料組織の遷移を定式化する. これまでの研究に示されている結晶方位についての評価方法のみでは,結晶方位変化をもたらす機構を十分に議論することはできない.そこで本研究では,方位変化を示す回転行列の対数を取ることで得られる三つの独立な実数成分が,材料中の結晶方位変化を考察することを可能にする有用な特性角であることを示す.そして,対数角による方位回転の解析が,結晶性材料の組織評価に有効な新しい考え方であることを実証する.
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