研究課題/領域番号 |
16K06704
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
弓削 是貴 京都大学, 工学研究科, 准教授 (70512862)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 配位空間の状態密度 / potential energy surface / 構造の統計的自由度の調和性 |
研究実績の概要 |
まず平衡状態の構造・物理量と空間的拘束の基本的関係を明らかにするために、特に特殊な微視的状態の物理量のみから力学変数の温度依存性を予測した際の低温での誤差の原因について調査した.その結果,基底状態と高温極限でそれぞれ実現される微視的状態を配位空間上で結ぶ線分上に配位空間での状態密度を射影した状態密度の奇数次モーメントが、低温領域でのズレと密接な関連があることを見出した. 実験で観測した構造から系の多体相互作用を逆予測する一般的な手法の開発を実施し,まずpotential energy surfaceと統計平均された平衡状態の系の微視的構造の間に全単射の写像が得られるような部分群が得られるのか、その条件を調べた.その結果,厳密ではないが(計算精度の範囲内で)平衡状態の構造とpotential energy surfaceがほぼ全単射になるような部分群が存在することが示唆され、特に構造が配位空間の状態密度の重心付近にある不規則な状態の多くがこの条件を満たすことを確認した.さらにこれらの状態に対しては写像は準同型であり,系のサイズの増大とともに写像を与える行列が対称かつ正定値に近づくことから,この条件のもとで写像の核は実質potential energy surfaceの集合のゼロ元に対応することを導いた.これらの結果から、potential energy surfaceと平衡状態の微視的構造の対応関係は,系に与える相互作用や温度とは無関係に、空間的拘束(格子など)で決まる配位空間上の純粋に幾何的な性質によってよく特徴付けられ,「構造の統計的自由度の調和性」という新規概念と、それに対応した調和度を導入することでこれらの対応関係が定量的かつ体系的に整理できることを確認した. 平衡状態の構造の組成依存性について、配位空間の状態密度の2次モーメントを組成の解析関数で表現することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施項目であった1. 平衡状態の構造・物理量と空間的拘束の基本的関係の解明、2. 実験で観測した構造から,系の多体相互作用を「一意に」予測できる手法の開発、3. 平衡状態の構造の組成依存性の解明のいずれについても概ね順調に進行している.特に項目2については写像の全射・単射性を理論的に考察し,多体相互作用の集合と平衡状態の構造の集合の間にある普遍的な対応関係の一部の解明に成功し,当初の計画以上の成果を上げている.この対応関係は「構造の統計的自由度の調和性」という新規概念を導入することで他の系に対しても系統的に整理できる.また、項目3ではある組成で構築した特殊な微視的状態の物理量から他の組成での平衡状態の物理量を予測する際に必要な、配位空間の状態密度(とくに2次モーメント)の組成依存性を系のサイズが十分大きいときに解析的に表現することに成功した.その結果,ある組成での単一の特殊な微視的状態の物理量のみでは他の組成での平衡状態の性質を近似的に予測する際にも情報が不十分であり,さらに付加的な微視的状態の物理量の情報が必要であることが示唆される.
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今後の研究の推進方策 |
系の多体相互作用と平衡状態の構造の間に、これまで予想していなかった重要な対応関係があることを見出し,同時にその対応関係からのズレが「構造の統計的自由度の調和性」という配位空間上の純粋に幾何的な要素から定量的に整理できることが分かった.そのため,この新規概念を基軸に加えて相互作用と平衡状態の構造の関係、組成依存性との関係を再考することで,これまでの方針のみでは解決が困難であると考えられる低温領域での空間的拘束の役割の定量的な解明や、空間的拘束がつなぐ異なる組成間の平衡状態の物理量の関係の解明につなげていく予定である. そのために,調和性をよく説明できるような,配位空間上の微視的状態に対する距離空間を様々な空間的拘束に対して調査し,そこに潜む普遍性を見出すことが重要である. さらに近日,これまで構築してきた理論体系をカノニカルからグランドカノニカルアンサンブルに拡張し,定式化することに成功した.これにより自由エネルギーのように古典系で単一の微視的状態の物理量に対応しないような純熱力学変数の温度依存性を空間的拘束の条件のみで決まる特殊な微視的状態の物理量のみから特徴付けられることが示唆される.一方で、その微視的状態が満たすべき構造の条件を精確に求めるためには配位空間の状態密度の共分散を組成の解析関数で表す必要があり,これまでの成果で開発した手法の拡張による微視的状態の構造の解明を行う. さらに,高エントロピー合金の短範囲の規則化の傾向についても、その温度依存性の記述に必要な特殊な微視的状態の構造の条件を調査し,第一原理計算が実施可能な系のサイズにおいて実際に構築できるかを確認する.
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