研究実績の概要 |
本研究課題では、系に課された空間的拘束の情報と合金の平衡状態での性質の間に隠された様々な関係を定式化することで、現行の第一原理の効率を遙かに凌駕する新規の計算手法を確立すること、さらに平衡状態の性質を記述できる新規の基礎学理の構築を目的としている。実施期間全体を通して、以下のことを明らかにした:(1) 熱力学極限での配位空間状態密度の空間的拘束によらない普遍的な性質から、相転移温度以上の高温での平衡状態の構造の温度依存性を、空間的拘束で決まる定数の組合せを用いて定式化した。(2) (1)で定式化したアプローチを、正規直交で無い任意の自由度の組合せに対して適用できるように理論を拡張した (3) 平衡状態の原子スケールの構造を観測したとき、そこから系の多体相互作用を安定に逆予測するための条件を定式化し、長距離の周期構造を有する系の、従来未知であった平衡状態図の構築に成功した(4) 特異値分解や有理関数近似を組合せ、本理論の適用範囲を相転移温度近傍の低温域まで拡張することに成功した (5) 様々な多元系合金の平衡状態での不規則相の構造(原子配置の短範囲の規則化: SRO)を第一原理と本理論を組み合わせて予測し、SROの傾向は状態密度の共分散揺らぎを取り入れた特殊な構造から新しく定義される原子半径比を用いて、普遍的によく整理できることが分かった。(6) 平衡状態の構造の組成依存性を空間的拘束の観点から整理し、定式化した。特に最終年度では項目(3), (4), (6)の発展研究に注力し、例えば(3)では不規則構造近傍での統計力学平均の線型性と規則構造近傍での特異性に双対性があることが示唆され、(4)ではある条件をみたす有理関数近似により任意の多体相互作用に対してRobustな予測ができる定式化に成功するなど、当初の研究目的・実施計画で予想していた内容を超える成果を複数得ている。
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