これまでの研究では、転位運動に関する合金元素影響を評価する方法の検討を行い、希土類元素や3d遷移金属が延性を向上させる効果を生じることを明らかにした。しかし、Mg合金は一般的に破壊靱性が低く割れやすいことが知られており、合金化による靱性向上が期待されている。Mg合金では、粒界や双晶境界などの結晶の界面から割れが発生することがわかっており、界面の特性にもたらす合金元素の影響が割れの特性を決めていると考えられる。このような問題に対して破壊力学を基本とした理論体系が古くから知られており、破壊力学を応用して合金元素が破壊挙動に及ぼす影響について評価する枠組みを検討した。実験による2元系合金の破壊靭性試験と連携して、合金元素の界面への偏析と破壊に関する特性を第一原理計算によって評価した。ここで、界面構造に起因した特定の評価にならないために、実験で観察される様々な界面の原子構造を用いて応用した。その結果、Li、Ca、Sn、Pb元素の添加によって割れが促進されることが予測された。それら以外の元素は割れを抑制する効果があり、特に、Zrは割れの抑制に強く寄与することがわかった。電子状態の詳細な解析から、このような特徴はMgのp電子と合金元素のd電子の結合によって生じることを見出し、IIIBやIVB族元素が破壊抵抗を向上する効果を有することを明らかにした。実験結果と計算には良好な相関が見られ、計算によって予測されたZrが顕著に靭性を向上させることが確認された。これまでの成果と合わせて、計算科学による枠組みから構造材料の強度、延性、靭性を評価することを可能にした。
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