前年度は、表面酸化膜の形成を抑制したSm-Fe-N磁石粉末の表面に、20元素の非磁性単体金属をスパッタ法により成膜し、その前後での保磁力の変化について調べた。最終年度は、その結果を踏まえ被膜形成による保磁力増減機構の解明を進めるとともに、そこから得られた知見をヒントにSm-Fe-Nの潜在力を引き出す被膜材料の探索に取り組んだ。 被覆実験の対象とした非磁性20元素のうちBiを唯一の例外とする19元素について、膜厚数nm程度のナノ被膜を形成した時点で、磁石粉末の保磁力上昇が観測された。上昇幅は元素により異なるものの、上昇するという点では一致していることから、この現象には非化学的な単一の機構がはたらいているものと推測される。一方、被膜形成後にアルゴン中で500℃の熱処理を施すと、保磁力は①さらに上昇するもの、②被膜形成直後よりは低下するが原料粉よりは高い値にとどまるもの、③原料粉よりも低い値にまで低下するもの、などいくつかのパターンをとって変化した。熱処理後の挙動は元素種に大きく依存することから、その機構は各論的かつ複合的で、化学反応を伴うものも含まれると推測される。 単体元素で最も保磁力上昇効果が高かったのはZnであり、前記①の熱処理が保磁力上昇を促進するタイプに属する。被覆量や熱処理温度の最適化により、原料粉の約1.7倍まで保磁力を上昇させることができた。また、Zn被覆Sm-Fe-N粉末の表面における反応や各元素の化学状態について分析を進めた結果、被膜材料のZnは熱処理温度以下で主相のSm-Fe-Nと反応し、いくつかの合金あるいは化合物相を形成することがわかった。このうちで保磁力上昇に寄与する物質相を特定し、その機能を明らかにするとともに、その知見をより効果の高い被膜材料の設計に活かすことは今後の課題である。
|