研究課題
低次元量子スピン系の物質では、局在スピンが大きな熱を運ぶことが分かってきており、絶縁性の高熱伝導材料への応用が期待されている。本研究は、2次元スピン系の遷移金属酸塩化物に注目し、その大型単結晶を育成して熱伝導を測定することによって、高スピン熱伝導「室温で50W/Km」を有する物質を創製すること、高スピン熱伝導の機構「スピン量子数Sとスピン熱伝導の大きさの関係」を解明することを目的としている。そこで、今年度は、CaFeO2Cl、Ca2FeO3Cl、Sr3Co2O5Cl2とSr2CoO3Clに対して研究を行った。1.S=5/2のスピンを持つCaFeO2Clの単結晶育成と熱伝導:フラックス法を用いて単結晶の育成を行った。さらに育成条件を最適化することによって、約1×2×10mm3の大型単結晶を確実に作製することが可能になった。しかし、高温までの磁化率の温度依存性を測定した結果、磁化率の大きさが小さく、S=1/2の低スピン状態になっている可能性が高いことがわかった。2.S=5/2のスピンを持つCa2FeO3Clの単結晶育成と熱伝導:電気炉内で温度勾配を付けて、対流を起こし、酸素供給量を増やす方法により、フラックス法で単結晶の育成を試みた。しかしながら、単結晶の育成には成功に至っていない。育成後の生成物質からまだ酸素供給が必要であることがわかった。3.S=1のスピンを持つSr3Co2O5Cl2、Sr2CoO3Clの単結晶育成と熱伝導:Ca2FeO3Clと同様に様々な条件下のもとにフラックス法によって単結晶の育成を試みた。しかしながら、単結晶の育成には成功に至っていない。この系においても、育成後の生成物質からまだ酸素供給が必要であることがわかった。
3: やや遅れている
遷移金属酸塩化物の大型単結晶育成のノウハウをかなり得ることができたが、Sr3Co2O5Cl2、Sr2CoO3Cl、Ca2FeO3Clの単結晶の育成に至っていない。さらに、CaFeO2Clの単結晶の育成に成功したが、S=1/2の低スピン物質である可能性が高いことがわかった。以上より、やや遅れていると言える。
本年度で得られた遷移金属酸塩化物の大型単結晶育成の結果を元にして、Ca2FeO3Cl、Sr3Co2O5Cl2とSr2CoO3Clの単結晶育成を行い、熱伝導率を測定する。そのため、単結晶の育成のために、より多くの酸素が供給されるような条件下で単結晶の育成を試みる。今後も、CaFeO2Clは、磁気特性に関する報告が全くないため、育成した大型単結晶を使って、スピンによる熱伝導との関係を調べるためにも、磁気特性を明らかにする。
(理由)次年度使用額は、今年度の研究を効率的に実行したことによって生じた未使用額である。(使用計画)次年度の請求額と合わせて、部品費(消耗品費)として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 9件、 招待講演 1件)
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