研究課題/領域番号 |
16K06717
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
京免 徹 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (10323841)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エレクトロルミネッセンス / セラミックス / 薄膜 |
研究実績の概要 |
本年度は,サファイヤ基板上に酸化物EL素子を作製し,その電気・発光特性を調査した。 まず,サファイヤ基板上にIn1.95Sn0.05O3(ITO)透明導電体薄膜をゾルゲル・スピンコート法により400 nm程度製膜した。ITO表面に希塩酸を滴下しながら10000番のラッピングフィルムで表面を研磨した。この上に,(Ca0.6Sr0.4)0.998Pr0.002TiO3(CSTO:Pr)蛍光体薄膜をゾルゲル・スピンコート法により200 nm程度製膜し,その上に,Pt薄膜をDCスパッタリング法で30 nm程度製膜した。ITO表面の研磨により,直流抵抗が100 Mohmを超える素子が作製可能となり,素子の耐電圧も向上した。この素子を950℃でアニールすると,Ptを負,ITOを正に分極したときの電流が著しく減少し,発光強度は増大した。しかし,逆の分極ではそのようなアニール効果は起こらなかった。 このアニール効果の原因は,CSTO:Prの酸素欠損量の変化であると考え,アニール温度を変えるなどの実験を行ったが,その考えを指示する結果は得られなかった。次に,ITOとCSTO:Prの界面で何らかの化学反応がアニール中に起こると考え,X線回折実験を行ったが,新しい相の形成は確認できなかった。そこで,ITOとCSTO:Prが反応したときに形成されるであろう化合物をいくつか想定し,ITOとCSTO:Prの間にその化合物の薄膜を挿入した素子を作製したところ,その化合物がCaIn2O4とSrIn2O4のとき,上述のアニール効果と同様の結果が,アニールなしに得られた。このことから,ITOとCSTO:Prの界面にX線回折では検出できない薄いCaIn2O4やSrIn2O4が形成されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書では,平成28年度の研究計画として,(1)熱履歴と電気・発光特性の関係の解明,(2)不純物添加と電気・発光特性の関係の解明,(3)電子・正孔対を閉じ込めるクラッド層導入の試み,の3つを上げた.以下に述べるように,(2)については本年度の成果は得られていないが,(1),(3)については当初の計画通りまたは計画以上の成果が得られているため,上記の区分とした. (1)の調査は終了した。また,その原因の解明は平成29年度以降の計画であったが,本年度の研究によりITOとCSTO:Prとの化学反応により, CaIn2O4やSrIn2O4が形成していることが,その原因であることが示唆された。その相の検出は研究室レベルのX線回折実験では不可能であったことから,これを検証するには放射光等の利用が必要と考える。 (2)の調査は,本年度は行っていない。平成29年度以降に行う予定である。 (3)については CaIn2O4やSrIn2O4がクラッド層の役割を果たしていることが示唆された。この化合物をITOとCSTO:Prの間に挿入することにより,Ptを負に分極したときの電流が著しく減少し,発光強度も増大したからである。すなわち,Ptから注入された電子が,CaIn2O4層やSrIn2O4層でブロックされるため,電流が減少し,ITOから注入される正孔と結合する確率が増えたと理解できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度,CaIn2O4やSrIn2O4の薄膜をITOとCSTO:Prの薄膜の間に挿入することにより,電流が低下し,輝度が向上することを発見した。今後は,この効果の調査を中心に研究を進める。 まず,基本的な情報として,CaIn2O4やSrIn2O4の膜厚,CSTO:Prの膜厚,電気・発光特性の関係を調査する。また,CaIn2O4とSrIn2O4とで,電気・発光特性にどのような違いがあるかについて慎重に調査する。また,場合によっては,その固溶体Ca1-xSrxIn2O4層についても実験を行う。 CaIn2O4やSrIn2O4がPtからの電子注入を抑える電子ブロック層として働く理由は,そのバンドギャップがCSTO:Prよりも大きいためであると理解できる。しかし,私はCaIn2O4やSrIn2O4には,さらに,ITOからCSTO:Prへ正孔を注入しやすくする働きがあると考えている。そのように考える理由は,CaIn2O4やSrIn2O4の誘電率がCSTO:Prよりも小さく,電界はCaIn2O4やSrIn2O4に集中するため,ITOからCSTO:Prへトンネリング等により正孔が注入しやすくなるはずだからである。このことを,誘電率測定等によって検証する。 以上の結果を総合して,CaIn2O4やSrIn2O4の役割を明らかにする。さらに,同様な効果を示す他の化合物を探索し,発光効率と輝度の向上を目指す。
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