本年度は,昨年度提案した発光メカニズムの検証とクラッド層となりうる物質の探索を行った. まず,発光メカニズムの検証のため,Ca0.6Sr0.4Ti0.9Al0.1O3-d:Pr蛍光体薄膜をIn2O3:Sn透明導電体薄膜とSnO2:Sb透明導電体薄膜で挟んだ酸化物エレクトロルミネッセンス(EL)素子を作製し,In2O3:Snを正極,SnO2:Sbを負極として直流電圧を印加し,電流と輝度の時間依存性を測定した.電圧印加直後,電流は小さな値を示したが輝度はほぼ0であった.その後,電流と輝度は時間とともに増大し,最大値を示した後,低下していった.電流と輝度の増大は以下のように解釈できた.蛍光体薄膜はAlをアクセプターとしたp型半導体であり,電圧印加直後はホールが注入されるため,電流が流れる.しかし,電子は注入されないため,電子とホールの再結合が起こらず素子は発光しない.時間が経過すると,ドナーである酸素欠損が移動して,正極側に負電荷,負極側に正電荷が蓄積し,高電界が形成される.その結果,負極側から電子が注入されるようになり,正極からのホール注入量も増えるため,時間とともに電流と輝度が増大する. 次に,クラッド層となりうる物質の探索を行った.クラッド層とは,発光層よりも大きなバンドギャップをもつ物質であり,発光層をクラッド層で挟み込むことで電子とホールを発光層に閉じ込め,再結合確率を向上させる役割をもつ.探索の結果,CaTi0.5Al0.5O3-dが,電子閉じ込めの機能を持ち,なおかつ,ホールや酸素欠損の移動を阻害しないクラッド層となることを見出した.具体的にはIn2O3:Sn正極とCa0.6Sr0.4Ti0.9Al0.1O3-d:Pr発光層の間にCaTi0.5Al0.5O3-d薄膜を挿入すると,電流効率が5倍程度上昇した.
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