研究課題/領域番号 |
16K06731
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
内田 寛 上智大学, 理工学部, 准教授 (60327880)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | チタン酸ジルコン酸鉛 / 薄膜 / 強誘電体 / 圧電体 / ナノシート / 結晶配向性 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究進行においてはPZT薄膜の結晶配向制御を実施するための酸化物ナノシート材料の選定および合成を実施した。主として基板面方位に対してPZT(001)cおよび(111)c面の配向制御を行なうことのできるナノシート材料を準備することを本年度の目標とした。 PZT固溶体の結晶系はその化学組成(PbZrO3/PbTiO3比)に応じて相転移し(正方晶あるいは菱面体晶)、その結果として単位格子の分極方位は著しく変化する。従って基板面方位への分極軸配向を実現するため、本年度の研究においてはPZT(001)cおよび(111)c面配向用のナノシート材料の選定を実施する必要がある。これまでの研究成果よりPZT(001)c面配向用のナノシート材料としてCa2Nb3O10が有効で判明しており、また、文献調査の結果よりMnO2やMoO2などがPZT(111)c面配向用に適するナノシート材料の候補に挙げられるため、主としてこれらの材料をターゲットとして材料合成を実施した。 酸化物ナノシートの合成は、母材となる層状構造酸化物結晶の合成(固相法orフラックス法)、続いてそれらのイオン交換による層間剥離、といった手段により実施した。合成された酸化物ナノシートを水溶媒に分散し、これをシリコンウェハ等の基板表面にディップコーティングすることでナノシートをバッファー層として担持した基板を作製した。 合成されたナノシートは形態観察 (SEM, TEM, AFM) および結晶構造評価 (XRD, HRTEM) などのキャラクタリゼーションを実施すると同時に、ナノシート担持基板表面へのPZT薄膜堆積(ゾルゲル法)を実施することで格子整合性の有無を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PZT(001)c面配向用ナノシート材料の合成ならびに基板担持に係る実験については本年度の研究進行により十分な成果が達成されており、現在までに良好な結晶性を有するナノシート材料の合成、およびそれらを利用したPZT膜の結晶配向性制御に成功している。 一方、PZT(111)c面配向用ナノシート材料の準備に係る実験については前者ほど十分な成果は達成されておらず、合成されたナノシート材料はPZT層の結晶配向性に有効な効果を及ぼすことが判明したものの、ナノシートの結晶性不足により未だ完全なPZTの結晶配向制御には至っていない。これらの問題に対しては合成条件の最適化等の実験を引き続き実施すると同時に、結晶性および格子整合性を補助するための界面層(SrRuO3等の導電ペロブスカイト)の併用や、(011)c面等の他方位配向性ナノシートの採用、などを視野に入れた課題の着手をあわせて検討する。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き結晶配向制御用ナノシートの合成を進行するとともに、配向制御の達成された(001)c配向性PZT膜に対しては基板種の選定に基づいた熱応力のチューニングによるドメイン構造制御を試行する。 配向性PZT薄膜中に存在する「分極ドメイン」と「非分極ドメイン」の分率を”熱応力”の印加によりコントロールすることを試みる。PZT膜堆積後の冷却過程で膜/基板間の熱収縮率の相違により生じる平面バイメタル応力(=熱応力)を、基板種の選定によりその大きさおよびモード(圧縮/引張)を調整することでドメイン分率の制御が可能となるものと期待される。 更に、これらの研究を通じて得られた知見を利用し、分極ドメインの配向が最大となる“格子整合性(=ナノシート材料)”ならびに“熱応力(=基板種)”を設計し、PZT薄膜の完全分極軸配向成長、ならびにそれに基づく巨大分極特性の達成を最終的に目指すものとする。
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