平成30年度の研究進行においては、これまでの過程で得られた配向制御PZT膜におけるドメイン形成様式ならびにそれらのスイッチング挙動を関する更に詳しい調査を進めると同時に、各種配向膜の結晶配向性の更なる改善を試みることを主目的とした。 Ca2Nb3O10ナノシートを界面層とした(001)c配向PZT膜の結晶化において、Ca2Nb3O10ナノシートとの格子整合を起点とした界面層からの「a軸配向」モードの結晶成長に加え、膜材料のバルクあるいは最表面領域から進行する所謂「ランダム配向」モードの結晶成長が同時進行することが確認され、後者を制限することで(001)cドメインに富んだ高配向性膜の成長が実現可能であることが判明した。更に電場印加下での配向PZT膜の分極反転挙動に関する調査結果より、ナノシート直上の界面付近の領域では大電場印加に伴ったドメインスイッチング的な分極軸の再配列に相当する現象は発生し難く、厚膜化等に伴ったバルク領域の増大に伴いa-c軸ドメインスイッチングなどによる分極軸の整列が容易に発生することを解明した。最終的にはこれらの現象を利用することにより(100)SrRuO3//(100)SrTiO3単結晶基板上に形成されるエピタキシャルPZT膜に匹敵する分極特性を実現することに成功した。 一方、(111)配向制御においては、ナノシートの安定性欠如がこれまでPZT膜の配向性制御を阻害したものと予想され、界面層合成やPZT膜形成時の雰囲気制御などにより不完全ではあるが優先的な(111)配向を有するPZT膜を作製するまでに至った。これらの分極特性を調査した結果からはドメインスイッチング的な分極軸整列の挙動は確認されず、通常のエピタキシャル膜同様、分極軸の再配列を伴わない分極反転の機構を示すものと理解することができる。
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