研究課題/領域番号 |
16K06734
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研究機関 | 群馬工業高等専門学校 |
研究代表者 |
太田 道也 群馬工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (40168951)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リチウムイオン二次電池 / Siナノ粒子 / 有機シラン / ポリシラン / 熱分解 / 炭素小球体 / コイン型セル / 充放電特性 |
研究実績の概要 |
1)研究の具体的内容:平成29年度の研究計画は(1)有機シラン化合物を担持した多孔質樹脂小球体からSiナノ粒子担持多孔質炭素小球体(Si-CMS)を作製すること、(2)電池を作製して電気化学特性を調べることである。具体的内容は以下の通りである。 (i)有機シランからのSiナノ粒子の生成条件を検討した。まず多孔質炭素に有機シランを吸着して熱分解処理を行い、Siナノ粒子の生成と組成について調べることでSi-CMSの調製に適した有機シランと熱分解条件を選定した。(ii) 選定した有機シラン含有樹脂小球体を調製したのち熱分解処理を行うことでSiナノ粒子の生成条件を調べた。また、ポリシランについても同様の実験を行い、どちらがSi-CMSの調製に適しているかを調べた。(iii)調製したSi-CMSは、X線回折測定によってSi単体やSiCの生成を調べるとともに、走査型電子顕微鏡(SEM)で小球体の形状変化について観察した。また、炭素小球体(CMS)表面層から数nmの深さまでのSiの分布状況を調べるためにX線光電子分光法(XPS)測定を行うとともに、集束イオンビーム(FIB)装置でCMS粒子1個の表面を削り取ったのちにSEMで視野を確保してエネルギー分散型X線分光法(EDS)で元素分析を行った。また、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて断面の各元素のマッピングを行って分散性を調べた。Siの含有量は空気雰囲気下の熱重量分析後の灰分量から求めた。こうした解析をもとにSi-CMSの作製条件を検討した。(iv)調製したSi-CMSについて、試験的にコイン型セルを組立て、電極反応やLi吸蔵現象を調べた。 2)意義と重要性:平成29年度の研究結果から、有機シランの熱分解法で粒径の小さいSiナノ粒子の調製が可能であることと、電極としては放電容量とクーロン効率の高い電池特性が測定されたことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、Siナノ粒子の生成条件を調べるために市販の粒径の大きい炭素球を賦活し、これに有機シランを吸着して熱分解処理を行った。TEMではヘキサフェニルジシランで粒径20nm以下のSiナノ粒子の生成が確認できた。元素分析ではSiCは検出されなかったが、含有量が少ないために結晶性は議論できなかった。この試料からコイン型セルを作製して充放電測定を行ったところ、1サイクルでは845mAh/gという高い放電容量を示した。2サイクル以降は急激に低下したが、Siナノ粒子の生成と放電容量の向上が可能であるとわかった。この調製条件に基づいて、有機シランやポリシランを検討したところ、いずれもSi-CMSの作製は可能であることがわかった。しかし、ポリシランはSi含有量が有機シランよりも低く、またSiはTEMで観察できるほどの大きな粒径に成長していないことがわかった。1個の粒子断面におけるSiの分布は粒子内部よりも表層部近くに多く分布しており、粒子表面付近ではSi-Oの結合が検出された。コイン型セルを作製して、充放電特性を測定した結果、Siが含有されたCMSの放電容量は、Siが無添加のCMSよりも100mAh/g以上高い値を示し、10サイクル以上の充放電でクーロン効率は85%~100%となった。この現象はSiが無添加のCMSやナノ粒子を添加したCMSと異なる現象であった。以上の結果から、有機シランを吸着した多孔質炭素小球体の熱分解法は有効な方法の一と考えられる。しかし、生成するSi粒子はナノ粒子まで発達しないクラスターレベルと想定されること、表層部に分布するSiにはSi-O結合の生成が認められるという結果となったことから、平成29年度の区分としては、おおむね順調に進行していると考えられるが、電気抵抗の高いSi-O結合の生成を抑制する工夫とSi含有量の改善が必要であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には粒径が20nmと50nmのSiナノ粒子を担持した炭素小球体の調製条件を見出すことができ、平成29年度には有機シランやポリシランを含有する樹脂小球体の熱分解反応によってSiをクラスターレベルで含有する炭素小球体の調製条件が大凡わかった。この2年間で得られたSi含有多孔質炭素小球体(Si-CMS)はSiを含まない炭素小球体(CMS)に比べると高い放電容量が測定されたが、二種類のSi-CMSではサイクル特性において異なる挙動が測定された。すなわち、Siナノ粒子を含む場合にはCMSと類似してサイクル回数とともにクーロン効率が低下する傾向にあったが、クラスターレベルで含有する場合にはクーロン効率は85%から100%にまで向上して定常化する傾向が観られた。一方、炭素小球体表面層に分布するSi単体にSi-O結合の生成が認められた。 こうした成果を基に、平成30年度では大きくわけて以下の3点について検討する。(1)非結晶性Siナノクラスターの酸化反応の抑制、(2)Siナノクラスター担持多孔質炭素小球体を用いて作製した負極電極の充放電測定前後におけるLi-Si結合生成の確認、(3)作製したコイン型セルを用いたレート特性評価とリチウムイオン二次電池としての急速充電の可能性評価の実施 具体的計画として、(i)有機シランの熱分解時に還元雰囲気を共存させる、(ii)コイン型セルを組み立てるにあたって、負極材と導電助剤、バインダーとの組み合わせを調整して集電極との接着性を検討する、(iii)コイン型セルの電池反応を測定して、放電容量やエネルギー密度を求めると同時に不可逆容量を小さくする条件を検討し、Li-Si結合生成の確認と二次電池の負極材としての総合評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の研究を通して、炭素小球体表面に分布するSiナノクラスターにSi-O結合の生成が観測されたことが予想外であった。このことからSi-O結合の生成を抑制する方法について検討する必要が生じ、その結果、実験の進捗が概ね順調ではあったが当初予定よりは若干遅れたために、使用予定額を下回った。平成30年度においては、若干の遅れをリカバリーする実験目処が立てられたことで、予算の当初予定額を執行できる見込みは立っている。
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