研究課題/領域番号 |
16K06746
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野村 和史 大阪大学, 工学研究科, 助教 (90397729)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ミグアーク溶接 / 温度分布 / 金属蒸気 / 非軸対称アーク / 発光分光計測 / トモグラフィ / 干渉フィルタ / プラズマ診断 |
研究実績の概要 |
本研究では,複雑な溶接プロセスの熱源特性を捉えるための三次元発光分光法を開発している.アークプラズマの発光分光計測には現象を軸対称と仮定しアーベル逆変換を用いる二次元(r,z)計測が頻繁に用いられている.一方,本研究で開発している計測法は,多方向からの発光情報を元にトモグラフィにより断面発光強度分布を再構成していく三次元的(x,y,z)な計測法であり,非軸対称現象にも適用可能である.これまでに,時間的変動の少ないTIGアークプラズマ(H24年度採択:若手研究(B)24760600)や,溶滴移行を伴うMIGアークプラズマ(H26年度採択:若手研究(B)26820307)を対象とした研究報告を行ってきた.特に,MIGアークについてはプロセス中の金属蒸気挙動も同時に捉えることができるよう,計測装置は2波長同時に検出できるものとし,世界で初めて非軸対称MIGアーク中のアルゴンプラズマ,鉄蒸気プラズマの分布を明らかにすることができた.しかし,計測結果としては各種の発光分布のみであったため,プラズマの温度や鉄蒸気濃度といった定量的な議論が出来ていなかった.そこで本年度は非軸対称MIGアークに対してその温度分布や金属蒸気濃度分布といった定量的な計測を可能にすることを目的とした. 手法としては,アルゴンの1種,鉄2種,合計3種類の波長に対する線スペクトル強度を,それぞれ4方向からの情報を使って再構成し,これらの強度比を使う理論や,熱平衡状態を想定した計算,絶対感度較正法を駆使することで定量化に成功した.具体的な対象として,周期的な1パルス1ドロップ状態のMIGアークを計測した結果,温度分布や鉄蒸気濃度分布が溶接線後方に引きずられたようになる分布を計測することができ,またパルス中の鉄蒸気の濃度変化も3次元的に捉えることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は既報の単なる発光分布といった定性的な計測結果から,プラズマ温度や各種の数密度,濃度といった定量的な計測結果が導かれるよう,装置の改良と理論を確立させた. 理論を概説すると次のとおりである.鉄蒸気が存在する領域については,鉄原子の2波長の線スペクトル強度を用いて,相対強度比法から温度を算出した.さらに局所熱平衡を近似することによりサハの熱電離平衡式を適用するが,計測強度を絶対感度較正しておくことで,当該箇所の粒子組成も計算することができ,結果として鉄蒸気濃度分布がわかる.鉄蒸気の存在しない外周領域については同じく熱平衡を仮定した状態でアルゴン原子1波長の線スペクトル強度から温度を求めた. これらを実現するために,まずは分光器を用いてMIGアークを計測し,使い勝手の良い各種波長を選定した.それらを取得するための干渉フィルタを用意し,全12方向からなる,MIGアーク定量化のための三次元発光分光計測装置を作製した. 以上全て当初予定通りである.
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今後の研究の推進方策 |
溶滴移行を伴うMIGアークのような溶接アークの全体を評価できるよう,プラズマ情報の計算方法を改善する予定である.というのは,現状トモグラフィを行う際は画像再構成法としてML-EM法を用いている.しかしML-EM法は,再構成範囲に溶滴のような遮蔽物の存在を許していないため,そうしたものを含む高さは計測対象にできていない.しかし,本装置は様々な方向から現象を計測するものであるため,ある検出器からは観察できない領域でも別の検出器からは観察できる.この情報を活かして溶滴を含む断面での再構成を実現するために,再構成面の輝度分布に関数系を当てはめ最も有力かつ滑らかな輝度分布となるよう数学的な操作を導入することを計画している. また,この点を解決することで,計測対象とする溶接法,溶接材料などが拡張できるため,現状の軟鋼MIGアーク以外への適用も進める予定である.
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