研究課題/領域番号 |
16K06747
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
松田 昇一 琉球大学, 工学部, 准教授 (90390567)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アーク溶接 / 磁気制御 / 溶け込み制御 |
研究実績の概要 |
従来の溶融池磁気制御溶接法(ECMP法)は、溶融池に流れる電流に対して、外部磁場を付加することにより発生する反重力方向の電磁力により、ビードの垂れ落ちを防止し、高能率の溶接をすることが主目的であった。ところで付加する外部磁場の向きを逆にした場合、原理的に重力方向の電磁力が生じる。厚板を溶接する場合、この重力方向の電磁力を積極的に利用することにより、溶け込みの増大が期待できる。本課題研究では、重力方向の電磁力を積極的に利用した新しいECMP溶接のメカニズムを明らかにすることが主目的である。 平成29年度は、まず前年度製作した集中磁極を用いて、比較的実験が容易な薄板(板厚3 mm、SUS304)の裏波溶接実験を行った。その結果、新しい集中磁極により磁束密度分布の広がりが小さくなり、局所的に磁束を与えることができるようになった。また薄板(板厚3 mm、SUS304)の裏波溶接実験においては、重力方向の電磁力により溶け込みが増大することが明らかになった。次に、厚板(板厚6 mm 、SUS304)を用いて、溶融池内に生じる重力方向の電磁力が溶け込みにおよぼす影響を詳細に調べた。なお初期の研究計画に記載されたように、重力方向の電磁力の増大および溶融池全体の流動の制御ために、溶接方向前後に加熱された添加ワイヤを挿入した2ワイヤ方式で実験を行ったが、顕著な溶け込み増大効果は得られなかった。そこで磁極の位置および磁束分布を再度大幅に変更した。その結果、重力方向の電磁力による顕著な溶け込み増大効果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、まず前年度製作した集中磁極を用いて、比較的実験が容易な薄板(板厚3 mm、SUS304)の裏波溶接実験を行った。その結果、新しい集中磁極により磁束密度分布の広がりが小さくなり、局所的に磁束を与えることができるようになった。次に、厚板(板厚6 mm 、SUS304)を用いて、溶融池内に生じる重力方向の電磁力が溶け込みにおよぼす影響を詳細に調べた。なお初期の研究計画に記載されたように、重力方向の電磁力の増大および溶融池全体の流動の制御ために、溶接方向前方および後方に加熱された添加ワイヤ(Hot wire)を挿入した2ワイヤ方式で実験を行ったが、顕著な溶け込み増大効果は得られなかった。これらは、加熱したワイヤを挿入したにもかかわらず、溶融池と比較して、ワイヤの温度が低いため、ワイヤを挿入することによりアークから溶融池への入熱が逆に減少した影響だと考えられる。そこでワイヤ加熱電流を増加させて実験を行ったが、添加ワイヤとアーク間でアーキングが生じやすくなり溶接が不安定となった。そこで添加ワイヤ無しで、磁極の位置および磁束分布を大幅に変更した。その結果、重力方向の電磁力による顕著な溶け込み増大効果が得られた。これらは溶融池流れが大きく変わった影響だと考えられるが、その詳細なメカニズムはまだ不明である。そのメカニズムの解明は本課題研究最終年度(平成30年度)の最大の課題である。 平成29年度の研究成果は、2018年9月の溶接学会秋季全国大会および機械学会年次大会で発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度は、厚板(板厚6 mm 、SUS304)を用いて、溶融池内に生じる重力方向の電磁力が溶け込みにおよぼす影響を詳細に調べた。添加ワイヤ無しで、磁極の位置および磁束分布を大幅に変更した結果、重力方向の電磁力による顕著な溶け込み増大効果が得られた。しかしながら、磁場が溶融池流れおよび溶け込みに与える詳細なメカニズムはまだ不明である。 平成30年度は外部磁場が溶け込に増大におよぼす影響を明らかにすることを目的とする。そのために磁場を付加した場合の、溶融池流れを詳細に観測し、その結果に対してPIV解析を行う。また溶融池表面の温度分布を2色温度計測法により詳細に測定し、溶融金属の流れが溶融池の温度分布におよぼす影響を調べる。これらの結果より、磁場が溶融池流れおよび溶け込みに与える詳細なメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験で使用する厚さ6 mm(2 m×1 m,SUS304)の試験片を2枚購入予定だったが、約9万円程度するため残高不足で購入できなかった。なお試験片はロットが異なると、僅かに成分が異なることがあり、実験結果に影響する可能性がある。そのため実験に使用する試験片は同ロットが望ましい。
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