研究課題/領域番号 |
16K06755
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
斉藤 博嗣 金沢工業大学, 工学部, 准教授 (70367457)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 浸透性 / ぬれ性 / 毛管数 / 微視的浸透挙動 |
研究実績の概要 |
平成28年度の成果では,不着エネルギと浸透性に相関性があることが実験的結果より示唆された.一方,繊維束内や繊維束間では,樹脂含浸の挙動が異なることから,樹脂は繊維織布の厚さ方向では不均一に含浸することが明らかである.巨視的な樹脂流れと微視的な樹脂流れの差違は,浸透性そのものに誤りや繊維束内または繊維束間における気泡の発生を生じさせる可能性がある.粘性力と表面張力は繊維束内部またはその間における樹脂流れの優勢を決めるため,平成29年度は粘性力と表面張力の比を表す毛管数に注目し,繊維束内および繊維束間における樹脂含浸を表す毛管数と浸透性の関係性を検討することを目的とした. ガラス/樹脂間のぬれ性の評価には,接触角測定装置により接触角を測定した.接触角測定では加熱処理によって表面状態をそろえたスライドガラスおよび加熱処理後にシランカップリング剤により表面改質を施したスライドガラスを用いた.浸透性の評価には同様に加熱処理・表面改質を施したガラスクロスを用いた.真空状態でガラスクロスに樹脂を含浸させ,浸透性を評価した.接触角,表面張力,粘度から毛管数を導出し,浸透性と比較することで両者の相関性を評価した.実験の結果,表面改質を施すことによってぬれ性の向上による浸透性および毛管数の変化が見られたが,シランカップリング剤濃度の上昇により繊維束が詰まることで繊維束間に含浸しやすくなり,見かけの浸透性が向上したと考えられる.加えて,毛管数を統一した条件における樹脂含浸を浸透性によって整理すると,およそ同一の値に収束した.このことから微視的含浸挙動を表す毛管数は樹脂含浸におけるパラメータの一つになり得ると考えられるが,本実験で評価した領域外の毛管数における浸透性についてのさらなる検討が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目標であったぬれ性および付着エネルギと浸透性の相関性については,平成28年度の成果により一定の相関性が認められた.平成29年度はさらに微視的浸透挙動に着目し,微視的な樹脂浸透を制御すると考えられる毛管数を,浸透性に対する新たな影響因子と想定し,その相関性を調査した.従来の樹脂浸透に関する研究例でも,ミクロスケールにおける繊維束内外の樹脂流れについて検討されているが,特に繊維束内において3次元的に流れる樹脂の挙動を実際に観察するのは容易ではなく,直接的な観察例はない.そこで,本研究では毛管数が一定となる,すなわちミクロスケールの樹脂浸透挙動が同一となる条件下で,浸透性がどのように変化するかを実験的に検証した.その結果,エポキシ樹脂においては毛管数を統一した条件における樹脂含浸を浸透性によって整理すると,およそ同一の値に収束した.このことから微視的含浸挙動を表す毛管数は樹脂含浸におけるパラメータの一つになり得ると考えられることが明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度および平成29年度の研究成果より,浸透性の支配因子としてぬれ性および毛管数の影響を実験的に検証できたと考えられる.毛管数を同一にする実験的条件は樹脂流速および樹脂粘度の2つのパラメータに依存し,一意に定めることが困難である.そのため,平成29年度はエポキシ樹脂のみに限定し,毛管数を一定とする条件を工夫し,浸透性の評価を試みたが,完全に同一の毛管数を実現することは未だできておらず,他の樹脂系および異なる表面処理条件の繊維基材によるぬれ性の影響の検討も未達である.そこで平成30年度の目標として,異なる樹脂系およびぬれ性を有する繊維系において毛管数を統一し,ミクロスケールの樹脂浸透挙動が同一となる条件下で,浸透性がどのように整理されるかを実験的に明らかにする.仮に上記条件において浸透性が同一となれば,毛管数すなわち微視的な樹脂浸透挙動が浸透性の支配因子であることを明らかにできる.また上記条件下で浸透性が同一とならない場合は,巨視的な浸透挙動が浸透性の支配因子であることになり,繊維およびキャビティの形状的因子が浸透性を左右することとなると考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
ガラス繊維に対する種々の樹脂のミクロスケールの浸透挙動を評価する中で,樹脂粘度と樹脂流速および表面張力で定義される毛管数と呼ばれるパラメータがミクロスケールの樹脂流動挙動を支配することに思い至った.一方で,繊維束内と繊維束間を流れる樹脂の流動挙動を実際のガラス繊維束を用いて評価することが実験的に非常に困難であり,まず種々の樹脂の繊維束内外における流動挙動が毛管数により制御される状況をモデル試験で評価することを考えた.そこで,当初学内の3Dプリンタを用いてモデル試験の型作製を想定したが,装置が故障したため,急遽学外の企業に製作を依頼することとなり,予算が不足することとなった. 翌年度は実験装置等の新規購入を予定しておらず,本年度までの評価装置および評価結果を基に浸透性に対する付着エネルギおよび毛管数をはじめとするその他のパラメータの相関性について検討を進めるため,基本的に消耗品等の購入のみを想定しており,本年度に前倒しで10万円を請求しても,次年度の物品購入に深刻な影響は生じないと考える.
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