平成29年度の成果より,繊維織布内の繊維束内および繊維束間では,微視的な樹脂含浸の挙動が異なることから,微視的な樹脂流れと巨視的な樹脂流れの差異が浸透性に影響をおよぼす可能性が示唆された.特に微視的な樹脂流れの状態を,異なる樹脂間で統一した条件下で浸透性を評価することにより,その影響を明らかにできると考えた.そこで,平成30年度の取り組みでは,繊維束内および繊維束間での微視的な樹脂流れをあらわすパラメータとして,粘性力と表面張力の比によりあらわされる毛管数に注目し,繊維束内および繊維束間における樹脂含浸を表す毛管数と浸透性の関係性を,異なる樹脂系を用いて比較検討した.同一の繊維織布に対し,異なる樹脂系を浸透させる際の毛管数を統一する条件の導出を試み,ミクロスケールの樹脂浸透挙動が同一となる条件下で,浸透性がどのように整理されるかを実験的に明らかにした. 粘度のみの調整,または圧力のみの調整では,互いに連動するパラメータのため,毛管数を統一することはできず,これらのパラメータをいかに調整するかの工夫を要した.その結果,毛管数の定義式に着目し,温度に依存すると考えられる物理量,すなわち粘度および表面張力と,圧力と粘度に依存すると考えられる物理量,すなわち流速にパラメータを分けることを考えた.前者から各樹脂の粘度と表面張力の比が同一になる試験温度を算出し,同温度条件下で浸透時の樹脂流速が一定となる条件,すなわち理論的に毛管数が同一となる条件下において浸透性実験をおこなった.その結果,異なる樹脂系において浸透性がほぼ同一となることを実験的に確認できた.そのため,浸透性に対し,毛管数によるミクロスケールの樹脂含浸挙動は支配因子の一つとなりうると考えられる.
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