研究課題/領域番号 |
16K06758
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研究機関 | 徳山工業高等専門学校 |
研究代表者 |
笠置 映寛 徳山工業高等専門学校, 一般科目, 准教授 (10310947)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 金属磁性ナノ粒子 / 負の透磁率 / 負の誘電率 / 複合材料 / 反磁場効果 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,透磁率と誘電率が同時に負の値を示す左手系媒質を,針状金属ナノ粒子と樹脂を複合化した複合材料(固体材料)により実現することであり,また,それらを超小型マイクロ波アンテナ,高機能電磁遮蔽材料へ応用するための基礎的検討を行うことである。 平成28年度は,磁気共鳴による負の透磁率とパーコレート相におけるプラズマ振動による負の誘電率の実現が期待できる金属磁性粒子(針状・球状FeCoナノ粒子,扁平状・球状FeCo粒子,扁平状・球状FeNi粒子,扁平状Co粒子)を含む複合材料を合成し,その透磁率スペクトル,誘電率スペクトル,及び,導電率の測定,解析から,これらの金属粒子複合材料の高周波電磁気特性について検討を行った。 球状粒子複合材料と扁平状粒子複合材料の電磁気特性の比較から,粒子の扁平化(アスペクト比の増大)により①複合材料の導電性が高まること,②粒子のパーコレーション濃度が下がること,③低周波透磁率が増加することが明らかとなった。③については,扁平状粒子の配向方向を考慮した透磁率の解析から,粒子内に誘起する反磁場が低周波透磁率の大きさ,透磁率の分散周波数に大きく寄与することが明らかとなった。 また,以上の検討から,金属粒子複合材料により,負の透磁率,及び負の誘電率が得られ,それらの特性は,複合材料中の粒子濃度,粒子形状,及び異方的形状粒子の配向方向により制御可能であることも明らかとなった。 100nm長(25nm直径)の針状FeCo粒子を含む針状金属ナノ粒子複合材料の透磁率スペクトルにおいて,10GHz付近で非常に鋭い共鳴型の周波数分散が観測され,比較的大きい負の透磁率が得られることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の目的は,金属磁性粒子複合材料により負の透磁率,負の誘電率を実現し,その制御法について検討することであったが,概ねその目的を達成することができた。 一方で,針状金属ナノ粒子複合材料において観測された共鳴型の周波数分散については,そのメカニズムの解明までには至らなかった。今後,その解明に向けた検討が必要であるが,その一つとして,アスペクト比の異なる針状ナノ粒子を含む複合材料を合成し,アスペクト比がその電磁気特性に与える効果について検討する予定である。また,外部直流磁場下における透磁率スペクトルの解析から,透磁率の周波数分散に寄与する磁壁及びスピン共鳴についても検討し,メカニズムの解明を進める予定である。 金属磁性粒子複合材料の低周波透磁率の粒子形状効果を検討するにあたり,その理論的考察が必要となったことから,複合材料の透磁率と粒子濃度の関係を与える混合則の検討を,計画を前倒しして実施した。具体的には,Maxwell-Garnett近似に粒子形状ファクターを導入し,扁平状金属磁性粒子複合材料の低周波透磁率の濃度変化を表す混合則を見出すことができた。さらに扁平状複合材料の透磁率の実測値と得られた混合則による理論値との比較から,分散する扁平状粒子のアスペクト比を見積もれることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は,樹枝状Cu粒子及びCNT等の導電性粒子を含む複合材料において実現する低周波プラズマによる負の誘電率について検討を行う。そして,これらの負の誘電率とこれまでに得られた金属磁性粒子による負の透磁率とを組み合わせたハイブリッド複合材料を合成し,その電磁気特性の解析を行い,左手系媒質の実現を目指す。平行して,透磁率,誘電率のどちらか一方が負の値を示す特性,あるいはゼロに近い値を示す特性も,空間インピーダンス制御に活用でき電気通信技術に適用可能であることから,これらの特性の機構とその制御法について検討を進める。 また,明らかになっていない針状FeCoナノ粒子複合材料の高周波領域における共鳴型の透磁率分散のメカニズムについて,連携協力者と連携して,外部磁場下における透磁率スペクトル測定を行い磁壁及びスピン共鳴の機構を探る予定である。また,針状粒子のアスペクト比が透磁率スペクトルに与える効果についても解析を行い,その解明を行う。 平成30年度は,合成した左手系複合材料の応用に向けた検討を進める。まず,材料の設計を視野に入れ,複合材料の透磁率及び誘電率の混合則に関する検討を行い,さらに誘電率スペクトル及び透磁率スペクトルの分散機構について理論的解析を行う。 応用に向けた基礎的検討として,金属粒子複合材料の左手系特性によるインピーダンス変換,負の屈折について検討を行う。また,得られた複合材料の,マイクロ波アンテナの超小型化,電波吸収体・電磁シールド材への適用可能性についても探る。
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