研究課題/領域番号 |
16K06761
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研究機関 | 沖縄工業高等専門学校 |
研究代表者 |
政木 清孝 沖縄工業高等専門学校, 機械システム工学科, 准教授 (30323885)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 摩擦攪拌接合 / 疲労き裂進展 / 放射光ラミノグラフィ / レーザピーニング / 応力拡大係数 / 残留応力 |
研究実績の概要 |
Al合金の摩擦攪拌接合(FSW)継手について、レーザピーニング(LP)技術を用いて疲労信頼性向上を目指すとともに、X線CTや放射光ラミノグラフィを利用した非破壊的な疲労き裂進展挙動調査を用いて疲労特性改善メカニズムを解明することを目的としている。平成29年度は、パルス幅がナノ秒オーダーのパルスレーザを用いるLP処理(被加工材の表面に保護皮膜を必要としないためLaser Peening without Coating : LPwC処理と称す)と、パルス幅がフェムト秒オーダーのパルスレーザを用いるLP処理(LPwC処理と違い、大気中で処理ができるためDry Laser Peening : Dry-LP処理と称す)について、疲労特性改善の効果について検討した。以下にその概要を示す。 (1)Dry-LP処理によるFSW継手の疲労特性改善調査 各LP処理をA2024の共材FSW継手に適用したところ、いずれもFSW継手の疲労特性が母材と同等まで改善された。この理由について、代表的なピーニング効果(圧縮残留応力特性、硬さ特性、表面粗さ特性)の調査結果と破壊起点位置との相関性から検討した。いずれのLP処理材においても破壊起点位置が組織硬さの最弱部と一致したが、母材の硬さまでは回復していなかった。疲労特性改善の主要因が圧縮残留応力であることを示した。 (2)FSW継手に対するLP処理の疲労き裂進展抑制効果の検証 A6061共材FSW継手とA2024/A6061異材FSW継手材について予き裂材を用意し、各LP処理のき裂進展抑制効果を調査するためにき裂先端にLP処理を適用した。Dry-LP処理では試験片内部も含めてき裂進展がほぼ抑制されたが、LPwC処理では1mm程度の成長が認められ、予想に反してき裂進展を加速させる結果となった。この違いは、処理により付与された残留応力の違いに起因すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)Dry-LP処理によるFSW継手の疲労特性改善調査 前年度に接合条件を確立し、基礎的な平面曲げ疲労特性を調査したA2024の共材FSW継手に対してLPwC処理を適用し、その疲労特性改善効果について予定どおりに調査を行った。疲労試験を行った結果、FSW接合材の疲労特性はLPwC処理によって母材の疲労特性と同等の強度まで改善された。この理由について、表面粗さの増加、組織硬さの向上、圧縮残留応力の付与などの代表的ピーニング効果の調査結果から検討した。続いて、大阪大学の佐野智一氏と連携し、同じくA2024の共材FSW継手にDry-LP処理を適用し、その疲労特性改善効果についても同様の調査を行った。パルス幅の異なる2つのLP処理が疲労特性に与える影響について比較検討し、表面に発生した圧縮残留応力がもっとも顕著に疲労特性に影響することを明らかとした。当初の予定どおりに計画を遂行し、目標を達成した。 (2)FSW継手に対するLP処理の疲労き裂進展抑制効果の検証 A6061共材FSW継手とA2024/A6061異材FSW継手材の攪拌中心にき裂発生起点となる微小ドリルを付与し、き裂長さが4mmならびに6mmの予き裂材にそれぞれのLP処理を適用することで、各LP処理のき裂進展抑制効果を調査しようとするものである。今年度、過去に得られたデータに追加する形でSPring-8での実験を計画していたが、実験補助の学生が配属されなかったことから現地での追加実験は断念した。本検証に関しては、LPwC処理ではき裂進展が加速すること、一方のDry-LP処理ではき裂進展が停留することを明らかとしており、今後、膨大な量の実験データの解析を継続していく予定である。 SPring-8での追加実験を行わなかったが、予定していた計画を概ね達成していることから、「(2)おおむね順調に進展している。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は本提案の最終年度であるので、これまでのデータを取り纏めるとともに積極的に研究成果の発表を行う。 (1)ピーニング処理によるFSW継手材の効率的な疲労寿命延伸・信頼性向上のための指標提案:疲労予き裂を導入したA2024/A6061の異材FSW継手材に対し、LPwC処理ならびにDry-LP処理による疲労き裂の進展抑制効果を検証する。このとき、試験片内部におけるき裂進展挙動を放射光ラミノグラフィにより観察し、き裂の進展速度・進展経路からき裂先端の応力拡大係数を推定する。この結果をもとに疲労寿命延伸を目的とした損傷許容設計に対して、LP処理の効果的な適用に関する指針を提案する。時間的に余裕があれば、A2024/ A6061の異材FSW継手に対してLP処理ではなく微小球によるショットピーニング(Shot Peening : SP)処理を適用し、LP処理とSP処理との違いを検証する。 (2)研究成果の発表について:現在、2件の国際会議に登録済みである。一件は「疲労」に関する国際会議、もう一件は「レーザピーニング」に関する国際会議である。本研究の主たるテーマである「FSW継手へのLP処理(LPwC、Dry-LP)の適用は、世界的に見ても本研究が先行しており、積極的に成果を国内外にアピールしたい。 (3)今後の研究方針の策定について:29年度に適用したDry-LP処理は、従来のLP処理プロセスと異なり、施工時に水を必要としないアドバンテージがある。大型の機械構造物など水槽に設置することが難しい部材を容易に処理できるほか、水中に設置すると顕著に腐食するMg合金へも施工が可能であることから、実用化が期待される。特にMg合金に関しては、輸送機器の更なる軽量化達成を目的として非常に注目されている素材である。世界に先駆けてMg合金FSW継手へのDry-LP処理適用に関する検討を始める。
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次年度使用額が生じた理由 |
情報収集のための国際会議出席、研究発表のための国内学会出席など、旅費に関する出張見積額と実績額との差額分により端数が生じている。次年度の旅費の一部に組み込むこととする。
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