研究課題/領域番号 |
16K06766
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 豊人 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20455851)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エネルギー材料 / 錯体水素化物 / 結晶構造 / 格子振動 / X線回折 / 中性子回折 |
研究実績の概要 |
錯体水素化物は、水素を高密度に含有する錯イオンによって形成されるが、その形成機構は十分な理解に至っていない。このことが、錯体水素化物を利用した高密度水素貯蔵材料の開発を妨げる要因の一つとなっている。最近、申請者らは、錯体水素化物を形成するための前駆現象を初めて見出し、この現象により、錯体水素化物が、一般的に知られている反応温度(摂氏数百度以上)よりも低温(摂氏30度)で形成される結果を得ている。そこで、本研究の目的は、申請者らが発見した前駆現象に着目し、錯体水素化物の形成過程を結晶構造、電子状態、振動ダイナミクスの観点から総合的に評価して、錯体水素化物の形成機構を解明することである。更に、本研究で得られる知見から高密度に水素を貯蔵する材料開発のための合成指針を構築し、新規錯体水素化物の探索へ展開する。 平成28年度は、錯体水素化物を形成するための前駆体を有する中間相の合成条件を最適化し、X線・中性子回折によって中間相の結晶構造、電子状態を解明した。 今後の展開として、中間相における水素の化学結合を反映した水素の振動ダイナミクスを実験的に観測し、理論計算と融合させることによって前駆体の水素の化学結合を明らかにする。更に金属間化合物から中間相を経て錯体水素化物へ至る形成過程を直接観測することで、その形成機構を解明する。 本研究で得られる知見を用いて、より高密度に水素を含有する錯体水素化物の合成指針を構築し、新規物質探索へ展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、所属グループの現有装置と国内外の研究施設を利用し、平成28年度に計画した中間相を高純度に得るための合成条件を最適化してX線・中性子回折及び第一原理計算の相補利用から中間相の結晶構造、電子状態を解明した。 平成28年度の研究成果を踏まえて、平成29年度は、中間相の前駆体における水素の化学結合の解明を水素の振動ダイナミクスの観点で行う予定である。中間相の前駆体における水素の化学結合を明らかにするために水素の化学結合を反映した水素の振動ダイナミクスの観測(中性子非弾性散乱実験)は、平成28年度に米国オークリッジ国立研究所パルス中性子施設SNSで行った。申請者はこれまでに同様の解析を行った経験があるため、平成29年度に中間相の前駆体における水素の化学結合を反映した水素の振動ダイナミクス及び水素の化学結合を解明する見込みができている。この結果は、研究の総括として掲げるより高密度に水素を含有する錯体水素化物の合成指針の構築につながるため、新規物質探索へ展開する上で、重要な成果になることが期待される。 これらの理由のために本研究は、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、水素の化学結合を反映した水素の振動ダイナミクスを観測することで中間相の前駆体における水素の化学結合を明らかにする。 物質中の(水素の)振動ダイナミクスの観測手法として、ラマン・赤外分光及び中性子非弾性散乱が挙げられる。ラマン・赤外分光は、比較的簡便に行うことが可能であるが、全ての振動ダイナミクスの観測が困難である。中性子非弾性散乱は、大型中性子散乱実験施設を用いる必要があるが、全ての振動ダイナミクスの観測が可能である。また、中性子非弾性散乱実験において、その観測強度は、元素固有の中性子散乱断面積に依存し、水素は、他の元素に比べて非常に大きな中性子散乱断面積を有していることから、中性子非弾性散乱は、水素の化学結合を反映した水素の振動ダイナミクスの観測に最適な手法の一つである。この実験結果の解析手法として、第一原理計算による理論計算との融合が有効である。申請者は、平成28年度に中間相の中性子非弾性散乱実験を米国オークリッジ国立研究所パルス中性子施設SNSにて行っているため、平成29年度は、この実験結果を第一原理計算による理論計算結果と組合せて、中間相の前駆体における水素の化学結合を水素の振動ダイナミクスの観点で明らかにする。また、重水素雰囲気中での中性子回折実験を行い、中間相から錯体水素化物へ至る形成過程を結晶構造の観点で直接観測することで、その形成機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
円高の影響のため予定していた海外出張(2回)に関わる旅費が予算額よりも安くなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、昨年度に比べて円安傾向のため、予算作成時の海外旅費が高騰することが予想される。そのため、昨年度の差引額を今年度の旅費に計上する。
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