研究実績の概要 |
本研究の目的は、原子炉圧力容器鋼の寿命を律速するナノ析出物(Ni-Si-Mn-Fe)が、結晶学的にG相(cF116構造)に該当するか否かを判定するガイドラインを作成することであり、申請書に記した具体的な研究内容は、化学量論組成のG相(Ni16Si7Mn6)を起点としたNi-Si-Mn-Fe疑四元系状態図を作成することであった。 当初の計画に従って昨年度までに、地金を様々な比率でアーク溶解した結果、作成したインゴットが単相で且つ構造がcF116になるのは化学量論組成のG相のみであることが明らかとなった。鋼に実際に析出するG相には、Siが半分Feに置換した組成(Ni16Si3.5Fe3.5Mn6)のものもあるのだが、それはこの平衡状態図では再現できないことがわかった。この組成のG相は、熱力学的に非平衡な相であると結論づけられる。 状態図を作成する実験と並行して、化学量論組成のG相の物性測定を行った。その結果、全く想定していなかった新奇な知見が得られた。Thermo-calcでG相の融点を計算すると2,188 Kという結果になるのだが、実際の融点は1,475 Kであった。この大幅な食い違いは、既存の熱力学的データベースが正しくない可能性を示唆している。 G相の自由エネルギーを実験で直接導出した導出した前例はない。最終年度では、化学量論組成のG相の自由エネルギーを実験と第一原理計算でそれぞれ導出することを試みた。比熱を4 Kから融点までの温度範囲で測定し、エントロピーを導出した。G相が200 Kで磁気変態し、それより低温で反強磁性体になることも明らかにした。標準生成エンタルピーを導出する実験は現在進行中である。第一原理計算では、VASPとphonopyを用いて自由エネルギーを導出した。G相は温度によって磁性が変化するため、計算では反強磁性、強磁性、非磁性の3種類について検討した。
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